飯盒をソロキャンプで使う上でのネックの一つに「焼いたり炒めたりが出来ない」というのがあります。つまり、フライパンの機能が無いのです。蓋に取っ手が付いたタイプもありますが、蓋そのものは鉄板としての機能がないので、フライパン代わりに使うには難があるのです。その難を解消する試みとして、この戦闘鉄板は登場したと言えるでしょう。


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これがセット一式
麻袋、シーズニングの説明書き
鉄板と取っ手
あと、フェニックスライズのステッカーが入ってました



■掛子にイン

 戦闘鉄板とは、これまた珍妙な名前なのですが、これは巷で大人気の陸上自衛隊の戦闘飯盒2型からとったネーミングの様です。もっとも、自衛隊の仕様書の方には「飯ごう,2形」とだけ書かれていて、戦闘の字は見えません。ただし、「携帯燃料,金属缶製」の仕様書には「戦闘飯ごう」の字が出てきます。ただし、飯ごう2型とは別のものの様です(仕様書番号が違う)。なので、巷で大人気の戦闘飯盒は、名前として間違いの可能性があります。まぁ、間違いでも製品名を付けない訳にもいかないでしょうし、製造元がそう付けたのだからこの記事でも戦闘鉄板と称します。
 この戦闘鉄板の最大の特徴にして最大の利点は、無駄なスペースなく飯盒にイン出来る事です。正しくは掛子にイン出来る事です。しかも取っ手つきで、さらには収納袋まで付いています。飯盒の蓋をフライパン代わりにする際に問題になったのは取っ手で、別個にアルミハンドルを用意せねばなりませんでしたが、これは掛子には収まりません。戦闘鉄板では、鉄板も取っ手もすっきり掛子に入れる事が出来、かつ収納袋があるので掛子の中でガタガタ言わないのが良い。なかなか良く考えられていると思います。
 この戦闘鉄板、手に取ると結構ずっしりくる。スペックによると鉄板厚みは3.2mm、重さは296gとの事。それなりの厚みがあるので鉄板としての性能は期待できそう。その代わりウルトラライトとは真逆の思想という訳です。取っ手は鉄板の切り欠きに引っ掛けるタイプですが、案外しっかり引っ掛けれて鉄板を持ち上げても大丈夫。まぁ、引っ掛けるだけですから、鉄板を振る作業は出来ませんが、そもそもこの鉄板でチャーハン作ったりは無理なので、その点は無問題です。

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戦闘鉄板は出荷時は工業油が塗布されています

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ちなみに、自分のとこに来たのは
ビニール袋が密封されてませんでした

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ご覧の通り、飯盒の掛子にイイ感じに収まります
収納袋があるので、ガタガタも言いません


■シーズニング

 さて、この戦闘鉄板で最大のキモはシーズニングでしょう。シーズニングとは、鉄板に油を引いて熱して被膜を作る事て、鉄製のフライパンや中華鍋などには必須の工程です。とはいえ、フッ素加工のフライパンが一般的な今日では、よほどの物好きでなければシーズニングを必要とする調理器具を使う人は稀です。かくいう自分も稀な人間の部類で、これまでにも中華鍋を使ったりもしてましたが、はたして上手い事シーズニングできてたか、というと疑問です。
 なので今回、改めてシーズニングのやり方を色々勉強し、使う油は亜麻仁油とか荏胡麻油といった乾燥油が良いらしい事(逆に乾燥油では被膜が固すぎて剥がれやすいから、胡麻油の様な半乾燥油の方がイイという人もいた)、油は薄く塗らないとムラが出来て剥がれやすい事など、事前に勉強しました。実は事前に家内のスキレットをシーズニングしてみたのですが、油を厚塗りし過ぎたのでコッテコテな被膜になってしまいました。その反省から、戦闘鉄板では細心の注意を払いました。
 方法は以下の通り。
  1. 出荷時に塗布された工業油を中性洗剤でしっかり洗い落とし、
  2. ストーブで鉄板が青灰色になるまでしっかり熱します。
  3. 十分冷めたら、アマニ油を塗り、キッチンペーパーでしっかり拭きます。
  4. ストーブに掛けて煙が出なくなるまで熱します。
  5. 冷めたらアマニ油を塗り、しっかり拭いて、再度熱します。
  6. 油を塗っては熱する工程を5回ほど繰り返し、イイ感じに黒くなったらお終いです
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まずは中性洗剤で工業油を洗い落とします

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火にかけて水分を飛ばし、そのまま焼き入れします

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鉄板の真ん中に何かのカスが付着して
それが跡になってしまいました
このまま自然冷却します

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イイ焼き色です
このままの色合いで保ってくれないのが残念

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水でざっと洗い流したあと、火に炙って水分飛ばします

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熱が十分冷めてから、油を塗り、余分な油を拭き取ります

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油の塗り方は、このくらいが目安です

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煙が消えるまで熱して、冷まします

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こんなにベタベタに塗ると……

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ムラになってしまいます


 最後にクズ野菜で炒めて鉄の臭いを取れというのが多いですが、鉄の臭いよりもアマニ油の魚臭さの方が気になりますし、実際クズ野菜炒めなくても大して鉄くさくはありませんでした。極めて重要なのは、油を薄く塗るという事で、厚塗りにするとムラになります。
 また、シーズニングは火にかけてやる方法が一般的ですが、250度のオーブンで30分熱するというやり方もあり、むしろそっちの方がムラなく綺麗に仕上がる様に感じました。

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裏は火に炙られたり、ごとくで擦れたりして
結構傷が入りました

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オーブンで250度で30分熱するやり方も有りです



■シーズニングの効果

 上手にシーズニングされたフライパンは卵焼いてもくっ付かず、しっかり被膜が出来ていれば洗剤で洗っても大丈夫、といった様な話しをよく聞くのですが、今回の戦闘鉄板では、従来に比べたらしっかりシーズニングしたはずなので、卵焼いてもくっ付かないのでは、と期待して実験してみました。
 結果は、ものの見事にくっつきました。1回目は結構派手にくっついてくれて、目玉焼きには全然ならず、あまり混ざってないスクランブルエッグになりました。箸でこびりつきを削ろうにも落ちないので、水に浸けて卵をふやかして、爪でガリガリ落としました。
 2回目は先ほどの半分くらいがくっつきましたが、やっぱり鉄板の上を卵が滑る様な感じには行かず、今回も水に浸けて後始末しました。ただ、1回目の時よりは剥がれやすい感じでした。3回目も2回目と似た様な感じで、くっつくものはくっつく。まぁ、こうなるんじゃないか、と予想はしてましたのガッカリはしませんでしたが、上手い事いかないものです。
 もっとも、シーズニングの目的の第一は、被膜を作って酸化から鉄板を守る事で、その意味では水を弾く程度に油膜は出来ているので、シーズニングとしての目的は果たされているんじゃないか、と思いました。

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戦闘鉄板で焼けるのは卵1個が精一杯です

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派手に焦げ付きました

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洗剤は使わず、水でふやかして爪で剥がしました
一応は被膜は出来てます
ただ、ムラになったところは、少し禿げました

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ソーセージとかなら焦げ付かないかもしれません


■使い勝手

 さて、使い勝手ですが、ぶっちゃけた話し、それほど使い勝手が良いものではありません。付属の取っ手を鉄板の切り欠きに差し込んで使う様になっていて、この取っ手自体は取り付ければ結構しっかり鉄板を保持するのですが、付けっ放しで使うと取っ手まで熱くなって素手では触れなくなります。さりとて取っ手を外して鉄板だけストーブの上に乗せて使うと、物焼くときに不安定で滑って落ちそうになったりします。
 さらに言うなら、とにかく小さい。まぁ、飯盒の掛子に入るサイズなのですから小さいのは当たり前なのですが、卵1個分の容量しかありません。なので口に入る分しか焼く事は出来ず、焼いては食い、食っては焼きと、忙しない感じになりそうです。個人的にはせめて卵焼き器くらいのサイズがないと、なんか落ち着いて飯食えない感じです。
 まぁ、そんなのは見た目で分かる事ですし、そうなるのも分かりきっているんだから、嫌なら買わんときゃええやん、ってとこなのですが、そうは言っても飯盒の蓋でステーキ焼いたりした身としては、飯盒に入る鉄板というのはそれだけで魅力的です。そもそも飯盒そのものが、人によっては使い勝手の悪い道具なのですから、ここは「使い勝手の悪い道具をあえて楽しむ」アイテムなんだと心得て、飯盒好きな人には是非手に入れて欲しい一品だと思います。

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プライヤー使った方がもっと安定するかも?