前々から気になっていたものの、買っても使い道なさそうという事で手出ししなかった、フランス軍放出のデカ飯盒。日本国内では「フランス軍放出品 メスキット アルミ製 ラージ クッカー」とかいう名称で売ってたりしますが、この度、大量炊飯の必要性に鑑み、手に入れる事にしました。当初は、文化鍋や羽釜といった、日本の炊飯に向いた調理器具を考えていたのですが、形が嵩張る事からどうしても踏み切れず、結局、飯盒の形をしたものを選んだ、という訳です。ちょいちょいネットで売っているのを見かけますが、最近は徐々に値段も上がってきてますし、手に入らなくなる前に手に入れておこうと思った訳です。


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前々から気にはなっていたフランス軍のデカ飯盒
飯盒好きなら、是非とも手に入れて欲しい逸品です





■Le Boutheon / gamelle Bouteillon

 ところで、このデカ飯盒、その存在感の割には、詳細がよく分からない代物です。フランス軍放出というくらいですから、フランス軍が使ってたのでしょうが、分かっているのはそのくらいです。そこで、ベルリン警察飯盒と同様、どういった経緯のものかを調べてみました。
 まず、この飯盒の名称は、「ル・ブテオン」とか「ガメル・ブテヨン」と言うそうです。1874年にブテオンという人が開発した分隊用の食料運搬具で、輸送中に冷めてしまうので温め直せる様に金物にしたとの事。まぁ、19世紀の半ばだとプラスチックもなかったでしょうから、この手のものは金物だったのでしょう。当初は錫製だったそうで、文字通りのメスティンでした。典型的なそら豆型をしているのは、背嚢に縛着して装備するためで、これは飯盒に共通した理由からの様です。てっきり、騎兵や機械化部隊の装備かと思ってたら、まさかの歩兵装備でちょっとびっくりしました。(まぁ、歩兵以外でも背負って使ってたんでしょう)
 その後、何度かのモデルチェンジを経て、今日よく出回ってる1945年頃のブオテンはアルミ製になっています。MMTといった刻印が入っているのですが、これは「Manufacture Metallurgique de Tournus」つまりトゥールニュ冶金工場という意味で、この飯盒を作ってたメーカーか分かりませんが、トゥールニュ・イクイプメントという金物会社が今でもあります。
 このル・ブオテン、基本的に、これはスープとかシチューを運ぶフードコンテナで、これで料理をする事はあったのかなかったのか分かりませんが、1980年代頃まで使ってたみたいです。最近はいい保温容器がありますから、それで大量に放出されているんでしょうね。

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ル・ブテオンの特徴的な蓋に棒を差し込むとこ
写真ではでかく見えますが、案外小ぶりに感じました

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中古品という事だったのですが、おそらくデッドストック品です

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本体の底にM.M.T. 1945 TOURNUSの刻印がありました
おそらく、1945年にこのモデルは採用されたという意味でしょう

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長らく保管されていたのか、全体的にくすんでいて
蓋の裏は薄くグリスが塗ってありました

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蓋の裏のグリスはパーツクリーナーで落としました
食器用洗剤で洗ったら、キレイになり臭いも取れました



■サイズ

 これを扱っていたショップのサイトには、サイズは「外寸(縦x横x高さ):約15×28×25cm、内寸(縦x横x深さ):約12×23×21cm、フタの内寸(縦x横x深さ):約13.5×24×5.5cm」と記載されていました。重さは966gで、日本の兵式飯盒の約3倍です。兵式飯盒と並べてみると、そのサイズ感に圧倒されます。
 この形をしていると、日本人は飯を炊くイメージを持ってしまいますが、本来の使い方は、後方の炊事から前線に糧食を運搬する為のものです。日本ではほとんど知られてませんが(まぁ、自分も今回調べるまで知りませんでしたが)、当のフランス軍では結構ありふれたものらしくて、ブテオンは噂とかゴシップを意味する兵隊スラングにもなっている様です。
 重さは966gと日本の兵式飯盒の約3倍あります。蓋と本体に蓋を押さえつつ背嚢に縛着するための革通しが付いており、本体の両サイドにも釣り手の耳金を兼ねた革通しが付いています。この革通しにストラップを通して、背嚢に十文字に縛着するのだと思います。
 ル・ブテオンの本体の厚みは、切断して測った訳ではないので性格なところは分かりませんが、明らかに日本の兵式飯盒よりは厚めに作ってあります。蓋の方はフライパンとしても使うのを前提としている割には本体よりも薄く、この点はちょっと残念なところです。
 釣り手は、兵式飯盒よりも短く、背嚢に縛着する際に釣り手が浮かない様に、本体にフィットする様な形になっています。もちろん、手で持ったり吊り下げたりもする訳ですが、釣り手が湾曲している割には、本体がまっすぐ下げられる様になっています。
 蓋は本体に完全に被さる格好でなく、蓋の半分くらいが本体を覆う様な格好になっています。

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重さは兵式飯盒の約3倍です
本来は一個分隊(10人)のオカズを運ぶ為の容器です

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釣り手は本体にフィットする様に曲げられていますが
吊り下げても飯盒が斜めになったりしません

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蓋は本体に完全に被さる格好でなく
半分くらいハマる様に作られています

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兵式飯盒との比較

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そら豆型をしてるのは
どっちも背嚢に縛着する為です


■容量

 容量は5リットルという事で、兵式飯盒の2.2リットルの倍以上という事になるのですが、では具体的にこのル・ブテオンで何合の飯が炊けるのか、調べてみる事にしました。
 まず着目したのは、兵式飯盒の水量線(すいりょうせん、でなく、みずはかりすぢ、が正しい読み方)の位置ですが、測ってみると飯盒本体の縦の長さをほぼ3等分した位置に付けられている事に気がつきました。下の線がコメ4合の量を表していて、上の線はコメ4合の際の水の位置を表しています。となると、とりあえず、上の線の位置まで水をいっぱいに張って、それをル・ブテオンに注ぎ、何杯入るかをみれば、おおよその炊飯量が測定できると考えました。
 ちなみに、ル・ブテオンの本体の高さは約21cmで、これを3等分したら7cmずつという事になります。そして、兵式飯盒3杯分で、水の高さはル・ブテオン本体の上から約7cmの所でした。これはまずまず偶然だと思うのですが、ル・ブテオンは兵式飯盒の3倍の炊飯量、つまり12合のコメを炊く能力がある事を示しています。
 ちなみに、ル・ブテオンの蓋は、完全に本体に被さる格好でなく、蓋の天辺は本体の上辺よりも浮いていますので、蓋ギリギリまで炊こうとしたら、あと4合くらいはイケそうですが、鍋釜から飯が溢れるほど炊くのを「張り釜」といって、炊飯する上でよろしくないとされている事から、余裕を持たせて12合でマックスと考えるのが妥当でしょう。

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実は今回初めて気がついたのですが
兵式飯盒の水量線は、本体の3等分の位置でした

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ル・ブテオンの場合は、7cmおきに位置がつく筈です

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兵式飯盒3個分で、本体の2/3を占めました