日本飯盒協会は、軍隊の飯盒とそれに類する調理器具を愛でる協会ですが、飯盒、つまり旧日本軍で開発された飯盒は、もっぱらコメを炊く道具としての役割が主であるとの考えから、この項では、ご飯の炊き方、美味しいご飯とはなんであるかについて述べたいと思います。
コメ離れ、などと言われて久しいですが
やっぱり日本人は日本のコメが美味しいと思う民族だと思うのです
■ご飯の炊き方
直火でのご飯の炊き方は、様々なサイトでも紹介されていて、飯盒で炊く方法についても、多くが語られています。そのどれを参考にしても差し支えないのですが、当協会としては、総則として以下の方法で行っております。
上記の炊き方は、常温無風の環境での場合に最適化されたもので、気温が低かったり、風が吹いていたりすると、炊く時間に差が出たり、炊き加減に違いが出たりします。特に焚き火の場合は、火力調整が容易でなく、環境の影響を大きく受けますので、難易度が高いです。
ですので、環境条件の違いを考慮しながら、上の炊き方(炊飯時間)により近づいた炊き方が出来た時、とても美味しいご飯を食べる事が出来ます。
ご飯の炊き方も大事ですが、
コメの研ぎ方も大事です意外と適当な人が多いです
- 米を研ぐ。ただし、軽く一回程度。濯ぎは3回ほど。
- 30分から1時間、水に漬ける。(冬場は1時間推奨)
- 2合炊きの場合:4〜5分で沸騰する強火にかけ、沸騰したら4〜5分弱火にかける。
- 4合炊きの場合:5分前後で沸騰する強火にかけ、沸騰したらそのまま1.5分炊き、その後3.5〜4分弱火にかける。
- 火から下ろして15分ほど蒸らす(飯盒はひっくり返さなくてもよい)
上記の炊き方は、常温無風の環境での場合に最適化されたもので、気温が低かったり、風が吹いていたりすると、炊く時間に差が出たり、炊き加減に違いが出たりします。特に焚き火の場合は、火力調整が容易でなく、環境の影響を大きく受けますので、難易度が高いです。
ですので、環境条件の違いを考慮しながら、上の炊き方(炊飯時間)により近づいた炊き方が出来た時、とても美味しいご飯を食べる事が出来ます。
ご飯の炊き方も大事ですが、
コメの研ぎ方も大事です意外と適当な人が多いです
焚き火による飯盒炊爨の実演
炊く作業自体は10分程度で終わります
■美味しいご飯とは何か
炊きたての飯の香りをいつくしみ、そのまろやかな舌ざわりと、あるかなきかのうま味を一生の友としてきた人びとも、少なくなってきたとはいいながら、その繊細微妙な米飯の風味というものを尊んできたのである。
大塚力『食における日本の近代化』(国際連合大学 1982年)
「美味しい」と「感じる」事は、個々人の味覚や感性によるところが大であって、何をもってして、また数値的に、「美味しい」という事を規定するのは非常に難しい事であるのですが、文学的な表現をすれば、上記の様になろうかと思います。
まず、それほど美味しくないご飯の食感をあげてみると、こんな感じであろうと思います。
- 芯があるご飯
水に浸ける時間が短かった、火力が弱かった、逆に強すぎた、炊飯時間が短かった、こういう場合になります。書いて字のごとく、固かったり粉っぽい芯が残ったご飯で、炊き損じの代表格です。 - べたべたのご飯
水に浸けすぎた、水の量が多かった、火力が弱くて炊きあがりに時間がかかった、こういう場合になります。芯飯に比べればマシですが、ご飯を食べる楽しみが減退します。 - なんかモソっとしたご飯
沸騰までに時間が掛かった割には、弱火で重湯が引く時間が短かった場合に多いです。芯飯になりかけたのが辛うじてならなかった感じです。 - 焦げ飯
火力が強すぎた時は言うに及ばず、弱火でも火にかけている時間が長いと焦げます。底が炭化した時は、飯がまずいだけでなく、飯盒の後始末も大変です。
では、美味しいご飯というのは、どういうものか。様々な表現がありますが、こんな感じであろうと思います。
- ふっくらしている
- 米が立っている(べたべたしていない)
- 米独自の香りがし、噛むほどに味が増す(オカズいらないほど)
昔の人は、一汁一菜といって、オカズはほとんど食べずご飯ばっかり食べていた、という話しがありますが、焚き火で炊いた美味しいご飯を食べてみると、欲しくなるのは沢庵や梅干しといった漬け物や、メザシといった焼き魚、みそ汁、果ては塩や醤油、味噌といった、いわゆる一汁一菜のおかずが欲しくなります。昔の人は、カマドで薪を焚いて、お釜でご飯を炊いていた訳ですが、お釜も下半分に火が当たる構造ですし、焚き火で炊いたご飯は唸るほど美味くて、大したオカズが要らなかったのではないか、と思うのです。
ところが、実際にはこれが結構美味かったりします
■ご飯が美味しくなる理由
お米というのは、主成分は澱粉ですが、これは生のままでは美味しくないどころか、人間の胃腸では消化も出来ません。そこで加熱して消化吸収し易くする訳ですが、この加熱、つまり炊いてご飯にする事よって、美味しく食べれる様になるのです。その炊飯の過程を科学的に表現すると、以下の様になります。
- 当初、米と水が分離していて、釜の底からの熱の伝導で熱せられた湯が、米粒の間隙を対流して米粒の加熱が行われる時期。
- 米の澱粉が溶けてコロイド状となり、ために湯の対流が止まり同時に米粒の中の澱粉の糊化が進む時期。
- いわゆる<蒸らす>ため、米粒間と釜底に残留する水分の蒸散、米粒の中心部への吸収と膨軟が期待される時期。
- 釜底の水分が涸れて加熱し、底一面に狐色に色づいてα化が進み、更に良化して香味がつき、かくて真にうまい飯が完成する時期
■バーナーの大きさと炊飯量の違い
飯盒に当たる火の範囲が広いほど、α化がよりよく進みます。焚き火は飯盒の全周を覆う様に火が当たりますから、焚き火で炊いたご飯は美味しくなるのです。カマドで羽釜を使って炊いたご飯もこれと同じ理屈で、釜の底全体に火が当たるから美味しい訳で、「直火炊き」をうたう炊飯器の釜の構造もそれに準じています。同じ直火でも、バーナーヘッドの小さいコンロではあまり美味しくないのは、火の当たる範囲が狭く熱伝導の範囲が狭く、その他の部分のα化が進まない事が原因です。同様に2合炊きでは美味しかったのに4合ではイマイチだったりするのも、熱が伝導しない部分のα化が進みにくいからです。![]() | 広口バーナーで2合炊きの場合 バーナーヘッドの大きい家庭用コンロやストーブの場合、飯盒の底全体に火が当たり、かつ2合炊きの場合は嵩も低いので熱が上まで伝導し易く、比較的美味しいご飯が炊けます。 |
![]() | 広口バーナーで4合炊きの場合 バーナーヘッドが大きいコンロでも、4合炊きの場合は嵩が高く、上に行くほど熱の伝導が落ちるので、上の方が水っぽい感じになる事が多いです。 |
![]() | 小口バーナーで2合炊きの場合 バーナーヘッドが小さいコンロの場合、火が当たる範囲が狭く、伝導する範囲も狭いので、2合炊きでも美味しく炊けなかったり、火の当たってる範囲が焦げたりします。 |
![]() | 小口バーナーで4合炊きの場合 バーナーヘッドが小さいコンロで4合炊きするのは、まったく難しく、上は水っぽいのに下は焦げている、という事がよく起こります。 |
![]() | 焚き火で2合炊きの場合 焚き火は飯盒全体に火が当たり、全体的に熱を伝導しますので、非常に美味しいご飯を炊く事が出来ます。これが飯盒本来の使い方です。沸騰したら、薪を入れるペースを落として、じっくりと炊きます。 |
![]() | 焚き火で4合炊きの場合 焚き火で4合炊く場合は、2合の場合より若干時間が伸びますが(強火5〜6分、弱火5〜6分)、熱は全体的に当たりますので、美味しく炊けます。12分以内に完了すれば、無駄に焦げずにいい感じに炊けます。 |
■炊爨と炊飯の違い
「飯盒炊飯なのか、飯盒炊爨なのか、どちらですか? 」という質問がよく寄せられません。読み方も「すいはん」と「すいさん」、三文字目の「は」と「さ」の違いでしかないですし、飯盒でご飯炊く事には違いないので、炊飯でも間違いないのでは?と思われがちですが、辞書的には「飯盒炊爨」が正解です。
そもそも、炊爨の「爨」という字の成り立ちですが、「火で木を燃したカマドの上に鍋を置く男女」という構図になっています。字の意味は「炊事をする」という意味で、ご飯だけでなくオカズも料理する事を意味しています。ここで重要なのは、木、すなわち薪を燃やして料理する、という事で、漢字が成立した時代には、料理は薪を使った火力で行われるのが一般でした。
時代は下って、飯盒が日本でも使われる様になった時代、まだまだ料理はカマドで行われる事が一般的でしたし、ましてや軍隊が飯盒で炊事をするのは、戦地や演習、すなわち野外でしたから、薪を使って直火で使うのが前提でした。故に「飯盒炊爨」という熟語になった訳です。
さて、さらに時代は下って、我々の日常的な生活での料理は、ガスを使う事が一般的になりました。アウトドアでも、ガソリンや灯油、アルコールといった燃料を使うポータブルストーブが主流で、薪を使って焚き火で料理するという機会は、滅多にありません。ましてやカマドがある家など、ほぼ皆無です。なので、炊爨という言葉が、死語となってしまいました。
そこで、当協会では、焚き火を使って飯盒でご飯を炊く事を「飯盒炊爨」、焚き火以外の火力を使う場合を「飯盒炊飯」と呼び分ける事にしました。そして、その言葉の間には、格段のスキルの差があると考えます。というのも、ポータブルストーブやコンロを使った場合よりも焚き火の場合の方が相当に難易度が高く、また焚き火を使った場合の方が美味しさが倍増するからです。
そもそも、炊爨の「爨」という字の成り立ちですが、「火で木を燃したカマドの上に鍋を置く男女」という構図になっています。字の意味は「炊事をする」という意味で、ご飯だけでなくオカズも料理する事を意味しています。ここで重要なのは、木、すなわち薪を燃やして料理する、という事で、漢字が成立した時代には、料理は薪を使った火力で行われるのが一般でした。
時代は下って、飯盒が日本でも使われる様になった時代、まだまだ料理はカマドで行われる事が一般的でしたし、ましてや軍隊が飯盒で炊事をするのは、戦地や演習、すなわち野外でしたから、薪を使って直火で使うのが前提でした。故に「飯盒炊爨」という熟語になった訳です。
さて、さらに時代は下って、我々の日常的な生活での料理は、ガスを使う事が一般的になりました。アウトドアでも、ガソリンや灯油、アルコールといった燃料を使うポータブルストーブが主流で、薪を使って焚き火で料理するという機会は、滅多にありません。ましてやカマドがある家など、ほぼ皆無です。なので、炊爨という言葉が、死語となってしまいました。
そこで、当協会では、焚き火を使って飯盒でご飯を炊く事を「飯盒炊爨」、焚き火以外の火力を使う場合を「飯盒炊飯」と呼び分ける事にしました。そして、その言葉の間には、格段のスキルの差があると考えます。というのも、ポータブルストーブやコンロを使った場合よりも焚き火の場合の方が相当に難易度が高く、また焚き火を使った場合の方が美味しさが倍増するからです。
コメント