CRF450RXは原型機からして、それまでの450と比べると乗り易く作ってあるバイクなのですが、さらにエンジンをマイルドにし、サスの性能を下げず、柔らかく、車高を下げ、その他諸々の工夫を凝らして、「250並に乗れる450」として仕上げたのが、ゲイレルル号です。
 ところが、クラッチレバーの硬さは強烈で、250に比べても硬い。XR230で軽いクラッチレバーに慣れた身には、相当堪えるもので、これを機械的に解決する対策を取ったのですが、それが仇となってクラッチの耐久性が極度に落ちる事になりました。


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えらい事になったクラッチ一同





■WEXイースト 爺ヶ岳戦でのクラッチ損傷

 先日のWEX爺ヶ岳戦では、スタート5分後に実質的にバイクが満足に動かなくなり、その後、クラッチ不調でDNFする運びとなりました。そして、お店でクラッチを開けてみたところ、とんでもない状態になっていました。
 まず、クラッチスプリングを留めているボルトのメッキが剥げ(るほどの高熱だった)、フリクションが全部熔けた上でフリクション板がバラバラになり、クラッチ板は溶接したみたいにくっつき、熔けたフリクションがバスケットの内側にべっとりと張り付いていました。もちろん、全部真っ黒け。ここまで酷いのは、XR230の時でさえありませんでした。幸いに、高価なヒンソンのクラッチバスケットは、洗浄する事でフリクションのカスを除去する事が出来このまま使えますが、その他のパーツは、クラッチ板とフリクション板、スプリングだけでなく、ボルトからベアリング、クラッチセンターまで交換する運びとなりました。

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出走前に交換したオイルは
たった10分足らずの走行で真っ黒け

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ボルトのメッキが剥げるなんて、そうそうありません
なので、この日はボルトを取り寄せてませんでした


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中身はもう、すごい事に
クラッチの交換は自分でも出来ますが
中がバラバラになってる時は
破片がクランクケースに落ちる事もあるので、お店に頼みます

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クラッチセンターにへばり付いたクラッチ板を剥がすの図
クラッチセンターも真っ黒で交換する事にしました

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クラッチバスケットは鉄だけに熱に耐えた様です


■直接の原因

 クラッチがここまで破滅的な状態になったのは、全てGoPro動画に記録されていました。既に出だしの時点でクラッチは既に滑り気味で、下りではどうにかなっているものの、上りではちょっとした上りでも車速が上がらない感じ。スタートから2分後くらいの、森から出る滑る出口で難儀して以降は、半分以上クラッチが滑っていて、アクセルを開けても全然車速が乗らない。本来なら、もっと前に出る感じになるのだけど、開けるのが怖くて開けられないくらいの車速しか出てません。そして5分後くらいかは、いくらアクセル開けて車速がでず、失速して転倒しています。
 この時点でクラッチはほぼ寿命を尽きており、ここでリタイアしていれば、それほど酷い状態にならなかったかもしれませんが、ここから再チャレンジした事が、クラッチを破滅的に損傷した原因の様です。既に再発進の時点で相当滑っており、やっと発進してもずっとエンジンが唸る様な感じ。そしてどうにか地面の平たい所まで登ったもの、クラッチの中はもはや走行不能なまでに損傷していたのだと思います。
 この場合の正解は、先にも述べた様に、転倒した時点で止める事であったと思います。坂の途中で止まってしまうなど非常に嫌な事で、如何あっても平らな所まで行きたかった訳ですが、また行けると思っていたのですが、「行けない」という判断が出来ない程度に、経験が足りなかったという事だと思います。






■機械的原因

 仮初にも450でありながら、クラッチがこんな風になってしまう理由は、「クラッチレバーを軽くするために、クラッチスプリングを6本から3本に減らしている」からです。450のクラッチレバーは相当に重くて、ノーマルのままでは30分もしたら手が痛くなって乗れなくなってしまう。そこでスプリングを半分に減らし、比類なき軽さを実現したのです。その代わり、クラッチを押さえる力は半分になり、クラッチを維持する力も半分、もしくはそれ以下。その為、半クラを多用すると、たちどころに消耗してしまうのです。
 今回の状態になるまでに、GAIA戦で100分、戸狩戦で40分、神立戦で100分と、合計240分エンジンは稼働していました。そして爺ヶ岳戦の前のオイル交換で、「焼けてそうだけど、爺ヶ岳の後にクラッチ交換するか」という判断で臨んだのですが、実際には5分も持たずに終了。走り出した時には既に走行を続けるには無理なほどクラッチは消耗していました。
 爺ヶ岳戦が終わった後、消耗が激しいのであれば、交換時間を短くして、時間整備でクラッチ交換する事で対処する事も考えたのですが、神立戦ではそこそこ使えてたのが、今回一発でダメになった事を考えると、単に耐久時間が短いと行った問題だけではなく、「状況によっては一発で逝ってしまう」のであるから、時間整備で対策するのは、根本的に間違っているという答えになりました。
 つまり、6本で定格の性能を発揮する様に作られている物を、半分にしたのでは額面割れどころか、正しい使い方をしていない、という事になるのです。
 ちなみに、スプリングを半分にする、というのは他でも時たま見かけるアドバイスですが、時間の短い(かつ押しとかがあまりない)モトクロスでは使える手かもしれませんが、長丁場のクロスカントリーでは無理のある手であったと思います。

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半分にするとレバーは確かに軽くなる
その代わり、クラッチの消耗は劇的である

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右は新品のクラッチスプリング
熱で消耗し尽くし、短くなっています



■考察

 お店から指摘されたのは、以下の様な物でした。
  • 体重が重いから、半クラ時にクラッチにかかる負担も大きい。
  • 癖として、半クラを多用し、またその時間も長い。
  • クラッチレバーが軽いと握り易いが為、上記の使い方にままなる。
  • クラッチレバーが軽いと、繋がる位置や滑った感じが掴みにくい。
 XR230はそれまで乗っていたCRF250Rに比べると、クラッチレバーがとても軽く操作し易かったのですが、それに慣れて上記の様な弊害が生じているという訳です。本来なら、スパッとクラッチを繋いだ方が前に出る力も強く、当然クラッチも消耗しないのですが、おそらくは前に出るGに弱く、半クラで調整する時間が長く、その分クラッチを引きずって過度に消耗させてしまう。これは自分の乗り方の宿痾なのでしょうが、その乗り方がXR230でもクラッチをよく焼く原因の一つになっていた事は間違い無いでしょうし。
 よく「油圧に変えたら良いんじゃないか」という意見も貰うのですが、そもそもクラッチを引きずってしまう乗り方をしていたのでは、何をしても根本的な解決にならない様に感じます。

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熔けたフリクションのカスが付きまくってたバスケット
キレイに洗浄して貰いました
物が鉄だけに、段付きは大丈夫との事


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エンジンの中もとりあえず大丈夫そう

■対策

 お店からの説明を聞きながら思い浮かべていたのが、以下のエピソードでした。操作感の好みというのはあるとしても、やっぱり乗り物が変われば、それに合わせた乗り方をしなければ、その乗り物本来の力は引き出せないのだな、という事でした。
生産性を除くと四式戦の機体設計は一式戦・二式戦とあまり変わり映えのしないものであったが、九七戦・一式戦では軽く設定されていた操縦系統が意図的に重く設定されている。従来の軽い操縦系統は急旋回を行えるためその際にかかる荷重に対応して機体強度を高くしなければならず、強度確保のために機体重量が増加し、結果として飛行性能が低下するという悪循環が起きていた。そこで、急旋回を難しくすることで機体強度を低く設定して機体の軽量化を図り、速度や上昇力の向上につなげるという意図の元に重い操縦系統が採用されている(逆説的だが軽量化される分だけ旋回性能も向上する)

しかし日本軍のパイロットは鹵獲したソ連のI-16やLaGG-3に対してもテスト時に操縦桿が重いという評価を下すなど、九七戦から続く軽い操縦桿を前提としていた。(中略)このため四式戦では急旋回を多用する従来の格闘戦を行い難くなり、速度を活かした一撃離脱戦法を中心とした戦術を用いなければ本来の能力を活かせなくなった。

Wikipedia「四式戦闘機」より(2019年8月現在)
 お店から提案された対策は、クラッチスプリングを定数の6本に戻す、という事でした。当然の事ながら、クラッチレバーは激重になる訳ですが、重いからこそ、いつまでも半クラで引きずってる訳には行かず、スパッと繋ぐ癖を付ける様になるとの事。要するに、バイクを自分に合わせるのでなく、バイクの特性に自分を合わせる様に訓練する、そういう事です。
 これまで、軽いクラッチレバーに慣れてきた身としては、なかなか大変な事だとは思うのですが、こればかりはやる他ありません。これは単にクラッチの消耗を防ぐという意味だけではなく、自分のライディングの悪癖を直すという意味もあると思います。
 これまでは、出来る限り乗り易く、機械的な対策を重視してきたのですが、ようやく身体的な操作の方を見直す段階に入った様に思います。CRF450RX“ゲイレルル号”は、相当に出来る子になってますから、次は自分が頑張らないかんのです。

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今回はベアリングやジャダースプリングも交換しました