「飯盒でご飯を炊く」というと、結構難しい印象がある様です。 電気炊飯器みたいに、スイッチ一つで炊飯から保温までやってくれる訳ではないので、その意味では難しいのは確かです。しかし、実際にやってみて慣れてくると、その難しさというのは、火加減とか火力といった部分で、それさえ感覚的に理解出来ていれば、整った環境ならそれほど難しいものではありません。
ここでは、飯盒を使った基本的なご飯の炊き方と、難しいと思われる状況、環境を解説したいと思います。
家庭用ガスコンロを使った飯盒炊飯
動画は4合炊きの場合
寒い季節なので、沸騰に時間がかかりました
■飯盒の解説
今、市販されている飯盒は、旧日本軍が開発した兵隊用のものを踏襲したもので、基本的な使い方は当時と変わりありません。この飯盒では、最大で4合のご飯を炊く事が出来ますが、2合ないし3合でも炊く事が出来ます。ただし、1合は火加減の関係で上手に炊けない事が多いです。
蓋と掛子(中蓋)は米の計量器の代わりで、各々すりきり一杯で蓋は3合、掛子は2合図る事が出来ます。飯盒本体には上下二箇所に水量線が打刻してあって、下は2合の時の、上は4合の時の、水を入れる位置です。3合の場合はその中間まで入れます。
飯盒はもともとは焚き火に吊り下げて使うのを前提としているので、釣り手が付いています。もっとも、現代家屋やキャンプであっても、飯盒を吊り下げて使う機会というのは滅多になく、コンロに直接置いて使う事が多いです。本稿でもその様な使い方で紹介します。
革通というのは、もともと飯盒は背嚢に縛着して運搬するのを前提として作られており、この革通に背嚢の革のストラップを通して使ったのですが、その名残です。ただ、最近出回っている中国製の飯盒にはこの革通が省略されていて、これの有無が日本製の見分け方の一つになっています。(→どこで(どこの)飯盒を買えば良いか)
■炊く準備
ご飯を炊く準備というのは、米を研ぐ事です。そもそも米を研ぐというのは、昔は精米技術がまだ未熟で、精米した米に糠の粉が残っていたりして、そのままで炊くと糠臭い飯になってしまうので、しっかり研いで炊いたという事に由来します。現在市販されている精米は、そこまで気合入れて研がなくても臭い飯になったりしませんが、精米機などで自家精米する人は、ちゃんと研いだ方が良い場合もあります。逆に、無洗米はその名の通り、洗わなくてもそのまま使える米(糠層が完全に除去されている)なので、研ぎません。
米の研ぎ方は人によって様々ですが、一般的なのは、一旦米に水を入れて、水を切ったあと、米に手を入れて「の」の字を書く様に4〜5回かき回し、水を入れてとぎ汁を捨て、また「の」の字を書いて、というのを2〜3回繰り返した後、水を入れては捨てを水が澄むまで繰り返して、最後に入れた米の分の水量線まで水を入れる、というやり方だと思います。
変わった研ぎ方としては、米と水を飯盒に入れて、掛子をかけて、飯盒を上下にシャッフルする、というやり方。シャッフルした後、飯盒に水を入れて、掛子をして、掛子と飯盒の隙間から水を漉して流し、またシャッフルします。このやり方だと、手を米に入れずに済むので、手が多少汚れていても米を洗う事が出来ます。アウトドアで応用できるやり方です。
米を洗い終わり、水をセットしたら、しばらく米を水に浸けておきます。これは米に水を吸わせる行程で、これをやらないと固い飯になってしまいます。夏場なら30分、冬場なら60分浸けます。
お米の研ぎ方
■ご飯の炊き方(炊き干し法)
ここからが本題です。よくご飯の炊き方で「はじめチョロチョロ中パッパ、ジュウジュウ吹いたら火を引いて、ひと握りのわら燃やし、赤子泣いてもふた取るな」というのがありますが、あれはカマドで羽釜などを使って炊く時の要領です。飯盒で炊く場合、特にガスコンロで炊く場合は、「はじめチョロチョロ」は必要なく、いきなり強火で炊きます。
- 強火に飯盒をかけ、沸騰させる(大体4〜6分)
- 4合の場合は1.5分、3合の場合は1分、強火のまま炊く
- 上記の時間が過ぎたら弱火にする。2合の場合は沸騰したら弱火にする
- 弱火で3分30秒かけたら、火から下ろす
- 10〜15分蒸らして出来上がり
いきなり強火で炊くと焦げてしまうのでは?と思われるかもしれませんが、水が沸騰して米が対流している間は焦げません。むしろ、強い火力でしっかり沸騰させないと、美味しいご飯になりません。4
4合や3合の時に、強火のまま延長して炊くのは、量が多いのでしっかり対流させて熱を上の方まで伝えるのと、噴きこぼす事で余分な水分を排出する為です。2合では量が少ないので沸騰したら弱火にして水分を米に吸わせます。
ご飯が焦げるのは、むしろ弱火に落とした時で、米が水分を吸って膨らみ、対流が落ちてきた時に底にいつまでも火が当たっているから焦げるのであって、焦げる前に火から降ろせば焦げないか、焦げても少々です。
この炊き方は、「炊き干し法」と言って、飯盒に限らず、土鍋や文化鍋で炊く場合も一般的にこの方法がとられています。電気炊飯器での炊き方もこの方法によるものです。
ファイヤーボックスを使った飯盒炊爨
基本的なやり方は、ガスがガソリンなどのストーブでも同じです
■環境の違いによる難しさ
飯盒に限った事ではありませんが、直火でご飯を炊く際の難しさは、環境が良くない時にあります。具体的には、風がある時と気温が低い時です。
屋内で炊く時はまず風の影響を受けませんが、屋外で炊く時は風がきついと風に火が煽られて消えたり、風で熱が飛ばされて火力が低くなります。風のある時は、風避けを用意して出来るだけ風を防ぐ必要があります。
気温が低すぎる場合も、沸騰までに時間がかかり、上手に炊けないどころか、炊飯自体が無理な場合があります。具体的には、沸騰に時間がかかり、8分超えても沸騰せず、気がついたら低温の湯で米が膨らんでふやけてしまい、それでいて底が焦げている、というパターンです。あるいは、極低温だと米さえ膨らまず、芯の残ったまま半煮え飯になってしまいます。
これら環境が整わない場合には、上記の炊き干し法による炊飯は実質的には無理で、他の方法を取らねばなりません。
風除けをするとしなとでは大違いです
ガソリンストーブでもちゃんと炊けない時があります
■湯立て法
湯立て法とは、沸騰した湯に米を入れて強火で炊き上げる方法で、旧日本陸軍の軍隊調理法にも掲載されている炊き方です。この湯立て法、今でこそマイナーな炊き方になりましたが、江戸時代くらいまではポピュラーな炊き方でした。
具体的には、
- 洗った米をザルにあけておき
- 4合なら860ミリリットル、2合ならその半分の水を飯盒で沸かし
- 沸いた湯に洗った米を入れて蓋をして強火のまま炊いて再び沸騰させ
- 4〜5分経ったら火から下ろして、15分蒸らす
というやり方をします。手順からわかる様に、火力の調整が要らないやり方です。その代わり、洗った米を別に取り分けて、後から入れるという面倒があります。この炊き方は、本来は羽釜や平釜といった、大きめの釜で大量の米を炊くのに適したやり方ですが、飯盒でも応用可能です。
ご飯の出来栄えの比較としては、やはり炊き干し法の方が美味しいと思います。しかし、湯を沸騰させてから米を入れるやり方ですので、気温の低い時や火力の弱い熱源を使う時に行う事が多いです。例えば、アルコールストーブや缶入り固形燃料で炊飯する場合です。
もっとも、いくら湯が沸騰していても、気温が低くて米が冷えている、あるいは火力が弱い時は、米を入れた後の再沸騰までに時間がかかり、美味く炊けない事もあります。
缶入り固形燃料を使った湯立て法による炊飯
■ハイゼックス炊飯法
旧日本陸軍主計少将の川島四郎博士が開発した飯袋(セロファン筒)というのがあって、これは、
- 一、最モ簡易ニ炊事(焦付カズ、半煮ナシ)シ得
二、濁水ヲ以テ炊事シ得
三、乾固又ハ凍結後ノ再温再生可能
四、容易ニ變敗セズ
五、携帯及分配容易ニシテ投擲ニモ耐ユ
六、肉野菜類等ヲモ合炊シ得
という優れた炊飯用品だったのですが、これはハイゼックス炊飯袋という名称で今日も発売されており、もっぱら防災用品として扱われています。
これは袋の中に米1合と規定の水(袋に線が書いてある)を入れ、口を括って、熱湯に入れ30分間湯がいたら出来上がり、という至極簡単なものです。寒くてなかなか沸騰してくれなさそうな時でも、気兼ねなく炊ける利便性があります。これも本来は大釜で大量にやるやり方ですが、飯盒だと2つほど同時に炊く事が出来ます。
湯がくのに使った湯は再利用が可能であるほか、投擲以外は上に書かれた効能そのものですので(もっとも、肉や野菜を一緒に炊いた事ないですが)、いよいよ飯盒炊飯が難しい時は、こういったやり方があるのを知っておき、予め予備として炊飯袋を用意しておくのも智恵の一つだと思います。
これがハイゼックス炊飯袋
沸かした湯に入れ、30分間煮沸します
焚き火で炊いたご飯には及びませんが、普通に食べれるご飯です
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セロファンにプリントされているのは「炊飯の科学」のイラストと全く同じものでした。製造元は東京セロファン株式会社でした。
祖父は陸軍の砲兵で弾道計算を担当していたので、戦中に配布されたものを大事に取っておいたのだと思います。
おかげさまで由来を知ることができました。ありがとうございました。