日本飯盒協会が発足した当初は、出来たご飯を食べる口が一つしなかった事もあって、もっぱら2合炊きが中心でした。その事、確立した飯盒での炊飯や炊爨の方法は、2合の場合の火加減であり、実のところ4合炊きはほとんど経験がありませんでした。加えて、焚き火による炊爨がどうして美味くなるのかの理由も未検証で、何となく美味くなる2合炊きでの炊爨を楽しんでいたのです。
 そのため、いざ4合を炊くとなると、2合の時とは勝手が違い、なかなか上手く行きません。今回は、焚き火による4合炊きを如何に上手くやるか、のお話しです。


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上手に炊けた時の炊きあがり
飯が均一に盛り上がり、カニ穴がある




■4合炊きの失敗の実例

   飯盒でご飯を炊いた場合の失敗というのは、「芯飯」「ベタ飯」「焦げ飯」「水っぽい飯」この辺りになると思うのですが、芯飯はよほど気温が低く火力が弱かった場合でないと、むしろなかなかならないもので、強火優先の炊き方をする様になってからは、芯飯に仕上がる事はありません。なので、4合炊きの失敗は、その次の3つの例におおよそ集約されます。そして、大抵は、ベタ飯なのに底が焦げていて、さらに水っぽい炊飯器で炊いたみたいな飯、というのがナンバーテンな出来映えという訳です。

ベタ飯:沸騰するのに時間が掛かった場合
   まず、強火パートで沸騰し吹きこぼれるまでに7分も8分も掛かってしまった場合。これは火が風に煽られる、燃えの悪い燃料を使うなど、一気に強い火力を得られない条件で起こります。こういった場合、重湯を引かせる弱火パートは意外にも短かったりします。つまり、グラフ的に右肩上がりの火力であると、こういう風になります。この場合、沸騰するまでにじっくり米を煮る格好になるので、言ってみればふやけてしまうのです。この場合、後述する水っぽい飯になる事もままあります。対策としては、風がある時は風よけを設けて火が極力煽られない様にする事、出来ればよく乾燥したよく燃える燃料を使用する事、これらによって極力防ぐ事が出来ます。

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処置ナシのベタ飯
それでも沸騰したものは、飯の味がする


ベタ飯:重湯が引くのに時間が掛かった場合
   強火段階ではベストタイムであっても、弱火パートで重湯が引くのに時間が掛かった場合は、やはりベタ飯になる事が多いです。弱火パートは、強火パートと同じかプラスアルファくらいの時間で終わるのがベストなのですが、焦がすのを恐れて薪を入れるペースを落とし過ぎると、かえって火力が弱くなり過ぎて、重湯が引くまでに時間が掛かってしまいます。そこで慌てて薪を足して火力を強めると、後述する焦げ飯を作る原因にもなります。沸騰したら弱火にするのはセオリーとしても、4合炊きの場合、弱すぎてもダメな訳です。対策としては、一気に弱くしようとするのではなく、徐々に弱くしていき、グツグツいうのが収まってきたくらいで大人しくなる様な火力のコントロールをするセンスを磨く事です。

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ラップ1は沸騰するまでの時間
ラップ2は重湯が引くまでの時間
弱火パートが時間掛かり過ぎの例である


焦げ飯:
 ご飯が焦げる理由は、火力が強すぎるという事よりも、必要以上に火に掛け続けている事に起因します。飯盒の中の米と水は、加熱される事により対流しつつ米が糊化して、最終的には対流が停まりますが、対流が停滞した後も加熱し続ければ、鍋底に面している部分から焦げて、最悪の場合は炭化します。
   焦げ飯が出来る第一の原因は、強火が強すぎて沸騰が早く、弱火パートも通り越して重湯が引いてしまい、その間に焦げるというもの。4分以内に沸騰してしまった場合は要注意で、沸騰して火力を落とそうにも焚き火の場合、ガスやガソリンのポータブルストーブの様に直ぐには火が弱くならないので、余勢で底が焦げてしまう事がままあります。
   焦げ目史が出来る第二の原因は、弱火パートが長過ぎる場合。上記のベタ飯でも述べた事ですが、焦げ付かせるのを恐れて、沸騰した直後に火力を落として弱火にしたところ、弱すぎていつまでも重湯が引かず、そのまま炊き続けるか、薪を足して火力を増すか、いずれにせよ、飯盒の中の対流が停滞するにつれ、底が焦げ始めており、重湯が引く頃には底が焦げている。これを避けるために、トータル時間で12分前後で火から下ろした場合、重湯の引き加減が中途半端で、ベタ飯なのに底が焦げているという、矛盾した出来映えになってしまいます。
   対策としては、強火であれ弱火であれ、ベストタイムで炊き上げれる様にする、という事です。非常に感覚的でセンスの要る事なのですが、この辺りがマニュアルでなく、経験で習得していかねばならない難しさがあります。

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焦げ飯は、火が強すぎるから焦げるのでなく
弱火であっても、火に掛けている時間が長いと焦げる
焦げると飯の風味にも影響する


水っぽい飯:
   炊飯器で炊いたご飯と焚き火で炊いたご飯の差異は、その味わいにあるのですが、これは言葉としては表現しにくく、美味しいご飯は「米の味がする」「飯の味がする」程度にしか表現のしようがありません。焚き火で炊いたご飯は、まさにそういう味です。一方、廉価な電気炊飯器で炊いたご飯というのは、こうした美味さまでは炊き出せません。ご飯が美味しくなる理由は、火の当たり具合によるもので、その点において焚き火に勝るものはありません。
   その焚き火での炊爨において、水っぽい飯が出来てしまう原因は、上記のベタ飯でも述べた様に、沸騰にやたら時間が掛かって、吹いた頃には重湯が消えていた様な、いつ炊けたか分からない様な炊き方をした時に多く出現します。つまり、加熱不十分でα化があまり促進しなかった場合、米の味はあまり出ず、むしろ水の味が前面に出てきてしまいます。ベタ飯の時によく見られますが(強火パートで時間が掛かった場合)、ちゃんと炊けていても起こりえます。
   対策としては、しっかり焚き火を焚いて、しっかり炊く事。これに尽きます。

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飯の真ん中にへこみがあるのは
そこに残った重湯が溜まってた跡である



■4合炊きの成功例

   ベタつきもせず、無駄にも焦げず、いい感じに美味いご飯にするには、やはり火加減が大事です。具体的には、
  1. 4分半から5分で沸騰する強火
  2. 強火と同じ時間プラス1分以内で重湯が消える弱火
   このタイムで炊き上げる事が出来た時は、大抵は唸るほど美味く、かつ無駄に焦げず(ただし、狐色に焦げる事も少ない)、非常に上出来のご飯が炊けました。天候、気温などの条件によって、火加減は随時変化する訳ですが、このタイムが大体正解の様です。
   難しいのは、4分半で沸騰したからといって、その後の弱火パートで火が強すぎて焦げたり(この場合はベタ飯にはなってない)、それを回避しようと弱火にし過ぎてベタ飯にしたり(この場合は焦げている)、むしろ沸騰してからの火加減が難しい様に思われます。

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ほぼほぼベストラップで炊けた時の例

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火起こしに時間が掛かった場合など
「始めチョロチョロ」の状態だと
ラップ1が若干長い場合もある
概してトータルで12分以内に炊けたら及第点である

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上手に炊けて、かつ焦げもない状態
底がキツネ色の焦げ目になるのが最上とされているが
これがまた難しい