前回の記事の最後に、「もっとも難易度が高いのは、焚き火などでの炊爨だ」と書いているのですが、実際そうだと思います。炊き方もさる事ながら、焚き火を使える場所もキャンプ場でしか出来ない人もいるでしょうし、経験がものをいう作業でありながら、経験を積む機会が乏しいという意味で、難易度が高いと思います。幸いにして(というか、少々脱法的にですが)、自分はベランダや庭で焚き火を使った飯盒炊爨が出来る環境にありますので、自分のこれまでの経験をまとめたいと思います。







■燃料の調達

   焚き火で飯を炊くには、当然、燃料となる薪が必要です。新小岩時代には、ときたまゴミ捨て場に捨ててある廃材を拾って来て、それをジグソーで切って鉈で割って使っていました。この時、薪で炊いた飯の美味さに目覚めたのです。
   去年引っ越した四街道は、ゴミ捨て場に廃材などはまったく落ちておらず、わざわざ薪を買ってまでやるのもどうかと思うし(ホームセンターには廃材の薪が売ってる)、どうしたもんかなー、と思った訳です。
   ところが、自分が住んでいる街は大きな家ばかりで、もちろん庭があり、庭木を植えている家が多いのです。そして、週明け最初のゴミの日には、町内をぐるりと回ると、大抵はどこかしらに剪定した庭木の枝が捨ててある事が分かりました。捨ててある訳ですから、自分が持って帰っても一向に差し支えありません。
   しかし、ゴミとして捨ててある枝ですから、基本的にはこないだまで木から生えていた奴ですが、細くて葉っぱの多いのは燃しても煙ばかりだからパス。いかにも生木っ ぽいのも燃やすのが大変なのでパス。燃料として適しているのは、そこそこ枯れてて(つまり乾いてる)、太すぎず(切るのが大変だから)、こういった奴で す。こういうのをゴミ捨て場から拾ってくるのですが、そうそうお目当ての枝が捨ててある訳でもないので、燃せそうなのは片っ端から拾ってきました。

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ゴミ捨て場から拾って来た剪定したての枝と
公園から拾って来た松ぼっくり


   さて、期待たっぷりに炊爨を始めた訳ですが、これがどうにも上手くいかない。具体的には、火が点いてもなかなか火力が上がらない、薪を投入しても火の着きが悪い、うっかりすると消えそうになったりする。見た目ガンガン燃えているのに、飯盒が全然沸騰してこない、などなど。ともかく、せっかく焚き火で炊いているのに、ちょっと残念な感じでした。
   美味い飯の炊き方、その火加減は、「4〜5分で沸騰する強火、5〜6分で重湯が消える弱火」というのは、新小岩時代に廃材の焚き火でも確かめたベストタイムなのですが、ゴミ捨て場から拾って来た庭木の枝ではこれにほど遠く、下手をしたら炊きあがりに20分もかかる時もある始末で、これはいよいよダメだな、という気になってきました。
   炊きあがりに時間がかかるとどうなるか。それは風のある屋外で、アルコールストーブやコケネンを使った時と同じ様な、沸騰までに時間がかかり弱火パートはほとんどない、あるいはずっと強火なんだけど知らん間に重湯消えてた、みたいな炊き方になります。そして、こうした時間のかかる炊き方をした時は、うっかりすると底は焦がすし、お湯でふやかした様な飯にはなるしで、「食えるけど大して美味くない、普通のご飯」になります。

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去年の初冬に庭から引き抜いた木
それなりに乾燥してそうに見えます


   昔読んだ太平洋戦争の戦記で、生木の燃やし方を書いたのがありました。とにかく、焚き付けに使うものは、マッチ棒くらいのサイズまで細くこまかくするのだ そうです。そうする事で生木が含んだ水分を小さな火でも乾かす様にして、徐々に燃やして火を大きくするそうです。こんな具合で、少々湿気った木でも、燃やすだけなら燃やす事が出来ます。しかし、美味い飯を炊けるほどの火力を得る事は出来ません。
   そこで、「おじいさんは山へ柴刈りに」で収集した柴はどうやって乾燥させるのかとか、切り倒した木を木材にする為にはどうするのか、というのを興味本位で調べてみました。そこで分かったのは、山で採った柴や木は、2〜3年は置いといて十分乾燥させる、という事でした。
   とすると、ゴミ捨て場に捨ててある枝なんてのは、全然乾燥が出来てない、生木同然という事です。まぁ、生木でも燃える訳ですが、生木というのは、含んでいる水分を火の熱で乾かしながら燃えるのですが、その際に気化熱で火の温度が下がってしまうとの事。これが廃材に比べて、圧倒的に火力が落ちる理由です。
   つまり、非常時など、生木っぽい材木しか手に入らない時でも、とりあえずは「食える飯が炊ける」というのには使えても、自分がわざわざ焚き火までして飯を炊く「幸せを感じる飯」にはほど遠いという事です。

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しかし、実際には2〜3年は放置しておかないと
乾燥が十分ではないそうです


■廃材に切り替える

   という訳で、生木で飯を炊くのが目的ではないので、どうにか廃材を手に入れる方法を探しました。そこで、地元系掲示板を見てみると、意外にも廃材を出している人がいるもので、しかもラッキーな事にウチの近所でも出している人がいたので、早速連絡を取って貰い受けてきました。
   聞いたところによると、自分以外にも貰いに来た人がいるそうで、その人はドラム缶風呂に使うとか言ってたとか。上には上がいるもんだと感心しました。ただ、めぼしい廃材はその人が持って行ってしまったみたいで、残っていたのは天井板とか襖や障子の木枠とか、そうした細々したものでした。それでも廃材には違いないので、有り難く頂戴して帰りました。
   トランポに載せた時は、大した量じゃないと思ったのですが、実際に処理を始めてみると結構な量で、一日では処理が追いつかず、毎日朝から出勤時間まで、ジグソーで15cmずつに切って、鉈で10〜15mm四方くらいに割り、保存に向いているのは段ボール箱に詰め、釘が刺さってたり木っ端になったりしたものは外に固めて置いておき、さっそく使ってみました。
   廃材とはいえ、元は建材に使われていた乾燥材で、燃やせばゴミ捨て場の枝とは比べ物にならない火力を発揮します。無風状態なら、飯盒を火に掛けて3分くらいでグツグツ言い出し、2分くらいで蓋が持ち上がり、5分くらいで重湯が引く、という感じです。むしろ、弱火パートでも火力が強すぎるきらいがあります。
   こうして炊いた飯は、米が立っていて弾力があり、米本来の甘味のあるまろやかな味わいで、もう、ご飯だけでバクバク食べてしまうほどです。

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貰って来た廃材
これなら乾燥は十分です

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廃材は優れた燃料ですので
失敗を許されない機会、例えば車中泊など
そういった機会に使います

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割った木は、直ぐ使える様に分類しておきます



■環境を整える

 しかし、こうした優れた燃料を使っても、強風が吹いている場合は、熱が飛ばされてしまい、9分待ってもグツグツ言い出さず、気が付いたら重湯が引いていた、という、アルコールストーブや缶入りコケネンみたいな、火力の低いストーブで炊いた飯になります。せっかく美味い飯を食う為に、廃材まで貰ってくるのですから、最低限の環境は整える必要を感じ、風よけを作る事にしました。
 あれこれ作り方を考えたのですが、あまり面倒くさい事はしたくなかったのと、自宅で使うので多少は重くて嵩張っても良いので、しっかりしたものを作る事にしました。そこで、近所のホームセンターで、1mmのアルミ板を3枚買ってきて、それをアルミテープで留めて、簡易の風よけにしました。そこそこの重さもあるので多少の風には耐えるでしょうし、アルミですから火にも強いですし、折りたたみ出来るので使わない時は畳んで壁にでも立てかけておけば良い。
 強い風が吹いた時は、やっぱり風に煽られる訳ですが、それでも有ると無いとでは大違いで、沸騰する時間に差が見られました。

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天地40cmは欲しかったので自作する事に

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風よけの中で熱がこもるので、夏場は結構暑いです
冬場はいいかも?


■焚き火による飯盒炊爨
 いよいよ焚き火による飯盒炊爨です。一口に焚き火による、といっても、様々な方法がある訳ですが、自分はファイヤーボックスを使っていますので、それによる方法を紹介します。ちなみに、飯盒は基本的には焚き火に吊り下げて使う道具ですが、火から遠すぎては火力が弱いという事になるでしょうし、近すぎたら火が燃えにくいという事にもなると思います。ファイやボックスに乗せた時に当たる火の高さ程度にするのが、一番良い出来映えになると思います。
 焚き火で飯を炊くには、まず火を熾さねばなりません。方法は様々ありますが、特段のこだわりがないのであれば、ファイヤーボックスの中にティッシュを3枚ほど入れて、細い枝なり木を入れて、下からマッチやライターで火を着け、徐々に太めの薪を入れていく、というオーソドックスなやり方で十分です。ブッシュクラフト的にやりたいなら、ファイヤースチールを使ったり、フェザースティックだの麻ひも解したのだの、まぁ好みにやって下さい。個人的には新聞紙は大して役に立つと思っておりません。
 次に十分火を大きくする事。火が着いたからといって、いきなり飯盒乗せると、空気の入りが悪くなって火が小さくなり、薪を入れてもなかなか火が大きくならない、そして、火力が強くなるまで温い火でだらだら炊く、なんて事にもなりかねません。

 火が十分大きくなったら、飯盒を乗せます。そして薪をどんどん入れて、強い火力を維持します。上に書いた様に、飯盒を乗せた時に火が落ち着いてしまう事もあるので、とにかく沸騰するまで気合い入れて薪入れて火を焚きます。それでもガスやガソリンの様に、火力が一定している訳ではなく、薪を入れた時は弱まり、入れた薪に火が着いたら強くなり、というのを繰り返します。薪への火の着きが悪い時は、ファイヤーボックスの下辺りから団扇で空気を送り込みます。
 火力が十分として、飯盒乗せてから3分ほどでグツグツ言い出し、5〜6分ほどで蓋が持ち上がったり吹きこぼれ(2合の場合は少ないが4合の場合はそれなりに出る)が出たら、おおむね成功です。沸騰したら、薪を入れるペースを落として弱火にします。5〜6分ほどして重湯が引いたら、火から下ろして蒸らします。

 ポイントなのは、火力が弱くて沸騰しないまま重湯が消えた場合(大抵は15分以上時間がかかってる)は、芯飯とかベタ飯とか、失敗したご飯になる事が多いです。また、火力の如何を問わず、12分以上火にかけた場合は、底が焦げている事が多いです。総じて、12分を過ぎてなお炊けきらない場合は、火力が何らかの理由で弱い場合です。風が強い時は、いくら火が強くても熱は逃げるので、必ず風よけを設けましょう。