日本人にとって飯盒とは、ご飯を炊く道具に他ならない訳ですが、その発祥であるドイツ軍では飯盒を使ってパンを焼く方法を開発しており、また日本軍においても同じくレシピを整えていた様です。その方法は、野外の事なので焚き火から出た熾きや灰、簡易の窯を使うのですが、まさかベランダでそんな事する訳にもいかないので、電子レンジのオーブン機能を使ってチャレンジする事にしました。


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いかにも“ライ麦パン”らしい飯盒パン
意外にも美味くて、ハマってしまいました




■習作として白パン作り

   パンといえば、随分前にチャレンジした事があったのですが、とにかく粉を捏ねるのが面倒臭くてやらなくなった経緯があります。その面倒臭い理由が、捏ねても捏ねてもネバネバ手にひっつく事で、実はこのネバっちいのが手にベタベタくっつくのは、子供の頃から嫌いな作業の一つだったのです。
   ドライイーストの箱に書いてあった方法を参考に、250gの強力粉にドライイースト6g、スキムミルク10g、砂糖18g、塩6gに水を入れて捏ね、形が整うまで捏ねる筈がなかなか整わず、べとべとするまま10分間、生地を叩き付け、60分発酵させます。発酵して膨らんで来た頃には多少はベトベトはマシになってましたが、まだペトペトする感じで、それを手で押してガス抜きして、濡れタオル被せて10分ベンチタイムを取り、そのあと綿棒で伸ばして丸めて、内側にラード塗った飯盒に入れて、さらに40分間2次発酵。その後、170度で余熱したオーブンに入れて30分焼いたところ、頭が真っ黒に焦げたものの、それっぽく白パンが出来ました。
   あとで、捏ねたあと打ち粉をすれば手に付かない、と聞かされ、「そーいや、昔バイトしてたホテルのベーカーでもそんな事してたな」と思い出し、打ち粉をする様になってから、作業は一気に効率よく迅速化する様になりました。ただし、蓋をしないとパンの頭が焦げるので、最初から蓋をするか(すると頭だけ白いままになる)、飯盒ケーキと同様に、8分ほど蓋無しで焼いて、それから蓋をする方法に切り変えました。

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ざっくり準備
銀色の薬包は、スキムミルクとドライイーストです

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ねちゃねちゃぬばー(汗)
昔から手がこうなるのは苦手です(爆)

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人生初の飯盒パンは、焦げたケツみたいな感じになりました

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一次発酵の様子
イースト菌の働きで、気温が高ければ
面白い様に膨らみます

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蓋をして焼くと、頭は焦げません

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普段食べてる1斤85円の食パンに比べると
目の詰まった上等そうなパンです


■ライ麦パンにチャレンジ

   白パンでパン作る感覚を練習したあと、いよいよライ麦パンにチャレンジです。その前に、今回初めて判った事ですが、コミスブロートというのは、ドイツ軍が兵隊に給与していたライ麦パンの事だと思っていたのですが、別にライ麦だけでなく、普通の白パンも給与してたらしくて、軍が給与するパンの事を総じてコミスブロートと称するのだそうです。ともあれ、ライ麦粉が90%も含まれたパンなどというのは、そこらのスーパーに売ってませんし、再現したパンが市販されていますが、かなりお高い事もあって、それで自分で作ろうと思い立ったのです。
   まず問題になったのが、ライ麦粉はそこらのスーパーでは売ってない、という事でした。となればネットショップから通販する他ないのですが、送料が入るとそれなりに高くなってしまいます。色々調べた結果、ウチから比較的近いところに富澤商店がある事がわかり、そこで中挽きのライ麦全粒粉とフォルサワーを買って来ました。

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調達したライ麦全粒粉とフォルサワー
ライ麦粉は中挽きと細挽きがありました
1kgだけでなく500gのも売ってました


*サワー種
   ライ麦パンのレシピを調べていると、サワー種(サワータイク)というのが出て来ます。この手間を省くために、フォルサワーを使うのですが、このフォルサワーというのは結構良い値段です。調べてみると、サワータイクはライ麦にぬるま湯入れて作るだけなので、コストゼロです。その代わり、足して捏ねて発酵させて、間引いて足して発酵して、みたいにヤヤコしい工程を何日もしなければなりません。しかし、コストゼロに惹かれてチャレンジしてみました。
   まず、ライ麦粉50gに40度くらいのぬるま湯50gを入れて良くかき回して、瓶の蓋して放置します。気温が高いと勝手に発酵が始まるそうですが、作り置きのカレーが軽く傷むほどの気温では変化がなく、40度くらいのお湯に漬けたら、元気よく発酵し始めました。蓋を開けると、酸っぱい臭いというか、饐えた臭いがします。これにさらに50gとお湯50gを入れてかき混ぜて、温めるとまたも発酵します。
   レシピでは、この発酵したのを20gとライ麦にお湯を混ぜて……、というプロセスが続くのですが、これ、どうみても量を増やしてるだけでないの?という気がしました。じっくり調べてみると、イースト菌が発見される以前は、自然酵母しかなくて、手間の掛かるやり方でやっていた様です。パーフェクトを目指すなら、そのヤヤコしいのにチャレンジする必要がありますが、自分はとりあえずライ麦100%のパンが焼けたら良いだけなので、ライ麦を発酵させるレベルでやめときました。

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猫の体温くらいでは発酵しませんでしたw

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30〜40度くらいのぬるま湯に漬けて
マメに湯を交換してやると、猛烈に発酵し始めました

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こんな感じで、中で気泡が出来始め
饐えた酸っぱい臭いがしてきます


*取りあえず焼いてみる
   サワー種が出来たところで、ネットで見つけたやり方(この人も手間をかけないサワー種をチャレンジしてる)でライ麦パンを焼いてみる事にしました。サワー種30gにライ麦100gとお湯100gを混ぜて、なにか変化が起こるか1時間ほど様子を見て、何も起こらないのでぬるま湯で温めてみて、それでも大して変化がないので、諦めてライ麦150gとぬるま湯100gに塩を入れて捏ねました。結構生地が硬くて、打ち粉する必要もないくらい。形を整えてラード塗った飯盒に入れて、190度に余熱したオーブンで蓋して30分焼きましたが、まだシケシケした感じがしたので、蓋を取ってさらに20分焼きました。
   さて、出て来た(というか、出て来なかったのでスプーンでこじって無理矢理出した)ブツは、入れた時の形のまんま、まったく膨らみもしてない靴底みたいな物体でした。焼く前は、なんか饐えた臭いがしてたのですが、焼いた後はさすがにライ麦パンっぽい匂いがしています。冷めてから包丁で切ろうとすると、表面がかなり硬い。指切らない様に注意して切ってみると、中身がぎっしり詰まったライ麦パンになってました。食べてみると、確かにライ麦パンです(当たり前ですがw)。昔食べたコミスブロートのまんまでした。
   試しにマーガリン塗って食べてみると、結構美味い。決して成功してるとは言えない出来栄えですが、それでもちゃんとライ麦パンです。もうちょっとマシな作り方すれば、人前に出せる物が出来そうです。

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サワー種50gにライ麦粉100gとぬるま湯100gを混ぜて
60分ほど発酵させます

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さらにライ麦粉150gにぬるま湯100gをいれて捏ね
40分ほど発酵させました

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しかし、まったく膨らむ気配はありませんでした

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結構生地が硬くなっていたので
それをうんうんと飯盒の形に整えて
190度で50分焼きました

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入れたまんまの形で焼き上がりました
結構硬かったですが、ライ麦パンの匂いがします

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出来栄えばアレな感じですが、そこそこ美味しく食べれました
マーガリン付けて食べると美味かったです



*マシな作り方をする
   そこで、今度はさめひろしさんの作り方を参考にさせて貰う事にしました。違いは、フォルサワーでなく自前のサワー種を使った事、放置して発酵でなく湯煎で発酵させた事、あと面倒なのでドライフルーツのグリーンレーズンを使わなかった事です。
   今回は、ドライイーストを使うのですが、前段のサワー種とリンゴジュース、ライ麦粉の混合では、常温では全然発酵が進まず、40度くらいのお湯にボールを漬けたら、ブックブクと泡だして発酵しました。温めると発酵が進む時間が猛烈に早くなる様です。そこで、さらに残りのライ麦粉、強力粉に塩を入れて捏ね、打ち粉して形整えてパンチングして、またもやお湯に漬けて40分放置したら、生地がパンパンに膨れてました。それをガス抜きして形整え、ラード塗った飯盒に入れて2次発酵させ、180度のオーブンで蓋無しで40分焼いてみたところ、今度は“如何にも”なライ麦パンが焼けました。
   粗熱取った時点では、重さが760gほどあったのですが、夜まで放置してると740gくらいまで軽くなっていました。最初は、リンゴジュースの甘みが気になったのですが、翌日には匂いが飛んで、良い感じの軍用パンの味になりました。手間は電気代を除いたコストは大体300円くらい。買うよりは圧倒的に安く作れる事が分りました。

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サワー種、リンゴジュース、ライ麦粉の混合液に
ドライイーストを混ぜたもの
常温では発酵に時間が掛かりますが
ぬるま湯に漬けておくと、40分くらいで発酵完了です

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発酵した混合液にライ麦粉を混ぜて捏ねて、二次発酵中
イーストが入ってると、ご覧の通り、結構膨らみます

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ガス抜きしたあと、飯盒の形にまとめてインします
一応、化粧にライ麦粉振ってますが
打ち粉してるので、あまり粉がくっつきません
(しなくても良いと思います)

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今度は良い感じに焼き上がりました


■ふすま入りも作ってみる

   さて、このライ麦100%の飯盒パン、あちこちで試食してもらったところ結構な評判で、ダイエッターの主婦の方から、ふすまパンを作って欲しいというリクエストが来ました。実はわたくし、ふすまというのは、ジャパニーズ・スライドルームドアの“襖”の認識しななくて、襖の貼り替えに使う糊を食うのかと思っていたのですが、正しくは“麸”で麦を精麦した時に出る、米で言うところの糠である事を最近知りました。
   そのふすまですが、パンとかに使うのはブランとも呼ばれて、200gで250円くらいするのですが、家畜の飼料とか農地の肥料に使うのは20kgで1500円くらいと、値段に大きな開きがあります。ネコ缶と人間用の魚缶と同じ理屈で、人間用のは上等がなのが入ってると思うのですが、詳細は不明です。イギリス辺りでは救荒食として食べるそうですが、食べた人曰く、クソ不味いそうです。
   ともあれ、人間用のふすまを買ってきたのですが、調べてみると、ふすま100%のパンというのは存在しないそうで、小麦に混ぜて使うようです。そこで、ライ麦80%、ふすま20%の割合で混合して焼いてみました。見た目はライ麦100%と変わりませんが、若干、ふすま入りの方が柔らかい気がします。お味の方は、まんまライ麦100%の味でした。ライ麦100%よりも若干割高になりますが、リクエストがあれば作ろうと思います。

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ライ麦粉はそこらのスーパーでは売ってないのに
ふすまは普通に売ってました

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トータルで、ライ麦340gに対して
ふすまは80g入れました

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仕上がりは全然普通のライ麦パンです
もちろん、美味しく食べれます