XR230は非常にポテンシャルの高いバイクでありながら、レース車としては機械的に決定的な不具合を持ったバイクで、市場に出す前に十分な耐用試験をしなかった感が拭えません。その不具合の一つが、焼け易いクラッチで、自分がこのバイクに投入した費用の約25%はクラッチ対策であった訳です。結果として、クラッチは十分実用に耐えるレベルにまで改装する事が出来ました。
   もう一つの不具合が、今回取り扱う、「1速に入らない病」で、これはXR230“パンツァーファウスト号”を購入して以来の課題となっていました。エンジンのオーバーホール後、症状は納まっていたのですが、先日の成田でのマディで頑張り過ぎたせいで、またぞろ症状が現れ、ついに一速にまったく入らなくなってしまいました。


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今回の作業の肝、クラッチとシフトリンケージ
XR230の二大疾病は、エンジンの右側にあります




■まずはクラッチ交換

   クラッチは、度重なる交換と試行錯誤の結果、デコボコランドのフィナーレ直前に思い切った対策を取って以来、まったく焼けなくなりました。あれから約2年持った訳ですから、それまでの事を考えると、格段の強化がなされた事になります。もっとも、先日の成田の午前中の激マディで相当酷使してしまい、その後も少しクラッチが滑ってるんじゃないかな?みたいなところを感じましたので、今回思い切って交換する事にしました。
   まず、オイルは既に240時間乗っていたので交換なのですが、出て来たオイルは黒灰色に変化していて、明らかにクラッチが焼けた症状を表していました。それでも滑り切らずそこそこ走っていたのですから、やっぱり大したもんだった訳です。
   続いてケースを開けてクラッチを見てみました。以前なら、クラッチ板が焦げてくっついて、マイナスドライバーで引きはがす、何て事がざらにあったのですが、今回は確かに真っ黒に焦げてはいますが、オイルは十分に潤滑されていて、もう少し持ちそうな感じ。しかし、クラッチのセンターブラケットは段付きを起こし、アウターも歯車がガタガタになっていて、もうこれは全部交換した方が良いね、という事になりました。
   そもそも、ツーリングマシンを過酷に使うからこうなった訳ですが、それにしても、スペシャルチューンでエンデューロレースに十分対応出来る対策が取れる様になったのですが、成果効果は大です。しかも、使用しているパーツは全てホンダの純正パーツで、それに若干の穴開けを施しているだけで、特段高価なパーツを組んでいる訳ではありません。その意味で、定期的な交換作業とさほど変わらない手間、費用でここまで強化出来るのですから、大したものだと言えます。

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もともと赤い色のオイルが真っ黒
完全にクラッチ逝っちゃってる色です

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ご覧の通り、クラッチ板は真っ黒
センターブラケットも変色
アウターは歯車がガタガタになってました

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XR230クラッチスペシャルの内容
めっちゃ頑丈になります



■一速入らない病の原因

   一速に入らない原因は、自分ではさっぱり分らないのですが、現象的には1速に入ってないのに気が付かないと、なかなかニュートラルに入らなくて焦る(そもそも2速なので、2速と3速の間にはニュートラルはない)とか、2速だと思ってたら実は3速で、3速で走ってるつもりなのに四速入ってて、どうしてこんなにトロイのか?と感じたりと、走行に非常に支障を来します。
   さて、1速入らない病の原因ですが、ギアシフトスピンドルの右端についているギアシャフトプレートとギアシフトカム。シフトペダルを上げ下げする動きに連動して、ギアシャフトプレートがギアシフトカムを回して、ギアを入れ替えるのですが、このプレートやカムが減って滑ってしまっている様でした。カムの一速の部分が角が削れていたのです。なので、このプレートやカムを交換する事にしました。

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シフトギアリンケージの動作
栓抜き状のプレートが、ギアのカムを回します

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バラしてみると、プレートもカムも削れている部分がありました
どうやら、1速に入れる際に、滑っていた様です


   このシフトギアを上げ下げするリンケージの部分、当節では珍しいというか、結構古い形状だそうで、最初は本当にこの部分の摩耗が原因か?と思われたくらいでした。しかし、ギア自体はちゃんと入る事。走行中も異音がしたりする事はなく、2速3速なら普通に走れた事から、ここだろうと見当をつけました。新しいパーツと見比べてみると、結構削れている事が分りました。このXR230はおそらく2005年製で、かれこれ12年物です。しかも、自分が引き継いだ時点で、1速入らない病でしたから、結構摩耗が進んでいたのでしょう。
   そこで、ギアシャフトプレートとギアシフトカムを交換したところ、ガシガシ1速に入る様になりました。

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下が新品のパーツ
カムの突起が当たる部分が結構削れています

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カムの1速の部分の突起も削れています
他のギアの突起は削れていないので
プレートが削れていても、2速以上はギアが入った訳です

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シフトギアリンケージを交換した事で
普通に、気持ちよく1速に入る様になりました


■まとめ

   今回の改装で、XR230の二大疾患である「クラッチ焼けちゃう病」と「1速入らない病」は、ほぼ対策が完成しました。この2つの問題が解決する事で、XR230の信頼性は格段に向上したと思います。惜しむらくは、このバイクがもはや廃盤であるという事です。
   クラッチに関しては、元々の設計に無理があるのか、それとも自分がXR230に課せられた使用限界を超えた使い方をしているせいか、とにかく弱かった訳ですが、2015年5月の対策が功を奏した様です。今回、クラッチ板のみならず、センターブラケットやアウターも交換しましたが、これらは前回交換時点で、次回は交換の予定でしたから、むしろ良く持ったというべきだと思います。使おうと思えば、まだ使えたかもしれませんが、レースの前という事もあり、今後もハードに使う予定であるので、思い切って交換して良かったと思っています。おそらく、向こう2年は持ってくれると思います。
   シフトギアのリンケージは、これはもう、完全に摩耗していたので、機械的設計的弱点とは言えないと思います。公道走ったり、ちょっと林道ツーリング行ったりというのが、XR230の本来の用途だと思うのですが、その使い方では、クラッチ焼けたりシフトギアが滑ったりという所まで行かないのかも知れませんし、その前に乗り換えたりして、こうした症状は目立たなかったのかもしれません。
   しかし、エンデューロやトレールトライアルでは、今でも使っている人がチラホラいますので、そうした人たち、またこの走行性能の高いバイクでそうした競技を始めようと思ってる人たちに、この情報が役立てば良いな、と思っています。

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色々ありましたが、レース前に準備万端整いました
マシン的に、もっともベストな状態で戦闘に臨む事が出来ます