ネットで飯盒関係の記事を探していると、ご飯を炊く時に一緒に掛子でオカズを作ってしまおう、という人がチラホラいるのを見かけます。まぁ、掛子、即ち、中蓋の存在意義がイマイチ分らんって人も多いでしょうし(計量器&皿としての役割があります)、どっちみちメシ炊くんだから、オカズも出来たらいいのに、と考えるのは、ごくごく普通の事なのかもしれません。
■日本陸軍の考え方
しかし、メスティンから炊飯可能な飯盒を開発した日本陸軍自体は、そうした使い方について、以下の様に考えていた様です。戦地(野外)に於ける個人炊事は飯盒を使用するものなり、依つて左に其使用法を述ぶべし。
飯盒炊事にありては、副食物は調理を要せず其儘食用し得るか、又は長く煮る必要なきものを選ぶを便とすと雖、温食給養、現地に於ける生物の利用等の必要ある場合に於ては、合同炊事と同様複雑なる副食調理を実施せざるべからず、之が為飯盒の使用法には左の二法あり。
(1)一個の飯盒にて主食副食(掛盒使用)を同時に炊くもの。
(2)数個の飯盒を以て組を作り、一部の飯盒にて主食を他の飯盒にて副食を別々に炊くもの。
右二法の内前者は飯盒其ものの構造上、総ての副食調理に対し完全に行ふことを得ず。蓋し飯盒の本盒と掛盒とは、其受くる火力に相違あるのみならず、假りに之れを同一とするも、飯の出来上る時間以内に煮へる副食物に非ざれば調理不可能にして、従つて掛盒を以て煮たる副食物殊に生菜、生肉等は假令完全に煮へたいとするも、調味品の浸み込み悪しく「水ッポイ」出来栄へとなるを免れざるものとす。
(糧友会『軍隊調理法』1937年10月)
ところが、同時代の軍国少年向けの読本には、こんな光景が出て来ます。この時代の登山やキャンプでは、あまり飯盒は使わなかったそうですが、それだけに皇軍兵士の卵たる軍国少年に、普段から飯盒の使い方に親しむよう促す内容でもあります。
藤木君は星野君から受け取つた飯盒のカケゴに焼売をつめ込んだ。この時代に、シュウマイが普段から食べられていた様なのが少し驚きでしたが、シュウマイを掛子で蒸すというやり方を紹介しています。要するに、メシを炊くついでの火力で作れる物なら可、という応用編を示したものなのでしょう。
〜略〜
「もういいだらう。」
やがて星野君は飯盒の蓋をあけた。焼売がうまさうにふやけているカケゴをとると、ご飯がホケを立てている。
「さ、僕が御飯をよそふから。」
さういつて藤木が大匙で御飯をアルマイトのお椀に三等分している間に、星野君は別の三百瓦と水を飯盒に入れて、大急ぎでカマドに掛けた。
「さ、たべよう。醤油とそれから、カラシも持つてきたよ。」
藤木はさういつて、割箸で食べはじめた。僕も、焼売をお菜に、炊き立ての御飯を頬張つた。
「こりやウマイ!」
僕は一口御飯を食べて見ていつた。家で食べる御飯とはくらべ物にならないほどおいしいのだ。
「特別に上等のお米なのかしら、これは?」
僕は、星野君にきいて見た。すると星野君は笑つて、
「お米は普通の一等米あ、だが飯盒で炊くととてもおいしくなるんだよ。」
「どうしてだらう?」
「それはね、焚火の焔が飯盒を万遍なく包んでしまふので、よくお米が煮えるからさー。」
「それもあるけど、僕の持つてきたおかずがおいしいからだよ。」
と、焼売が側からいつた。
「かうして青天井の下で食べるのも、おいしく感じる訳だね。」
(福永恭助『国の護り』1939年)
その様な訳で、自分もハナから出来ぬと決めつけず、とりあえず星野君に倣って、炊飯しつつシュウマイを蒸してみる事にしました。
■3合の場合
4合からスタートしても良かったのですが、たまたま3合炊く用事があったのと、さすがに4合では量が多くて吹き零れが凄いかなーと考え、3合からのスタートとなりました。使用したのは、プリムスのP-153、見たいテレビがあったので、室内で炊きました。いつもの様に強火からスタート。大体3分くらいで沸騰してきたのですが、掛子が抑えてるのか、いつもの様に蓋が持ち上がる前に、吹き零れがドバドバ出て来ました。それこそ、滝の様に出て来て、ストーブの火力調整ダイヤルが触ろうにも、吹き零れで指がアッチッチになる始末。しかもテンヤワンヤしてる間に、火まで消えてしまいました。
どうにかこうにか弱火にしたのですが、それでも暫く盛大に吹き零れてました。それがようやく収まったものの、今度は重湯がどれだけ消えたか分らない。結局、蓋とって、掛子外して、中身を点検する事に。結果としては、若干焦げが出来たものの、ご飯もシュウマイも美味しく出来ました。
■2合の場合
3合で盛大に吹き零れたのは、やはり掛子の分だけ沸騰時のクリアランスが少なく、あるいは圧が掛かり過ぎたからで、2合ないし1合なら、米や水の量が少ない分、吹き零れが上に上がって来にくいのでは?という風に考えました。そこでまず2合からチャレンジしました。使用したストーブはP-153、クーラー聞いた室内で行いました。前回と同じ条件です。例によって強火スタートですが、沸騰時の反応は3合の時よりもソフトで、吹き零れもそれほど多くなく、ふわーっと蓋が持ち上がる様な感じ。余裕もって弱火に変えましたが、湯気はそこそこ出るものの、吹き零れはほとんど出ませんでした。
それでも、飯盒の中身は蓋をあけ、掛子を取らないことには分りません。良い感じに重湯が無くなったタイミングで火を消しましたが、ホンのウッすら焦げが出来てました。でも、ご飯もシュウマイもバッチリです。
■1合の場合
2合では、吹き零れが大分少なくなりましたから、さらに少ない1合では、もはや吹き零れはないんじゃないか、というのが当初の予想でした。ただし、1合炊きの場合は、2〜4合の時より相対的に火力が強くなるので、少し水を多めに入れました。条件は同じ、P-153で室内。ガンガン強火で行きます。が、劇的な変化は沸騰時に起こりました。湯気が出始めたかなー、と思ったら、ぼたぼたぼたーーーっと吹き零れが一気に出て来ました。蓋が持ち上がる前にです。それを辛抱して、蓋が持ち上がってから弱火にしましたが、それでもガンガン吹き零れが出ます。3合の時の比ではありませんでした。ようやく噴かなくなってからも、なかなか重湯が引かなかった様で、いつもより長い時間弱火に掛てました。
結果としては、ご飯もシュウマイも美味く出来たのですが、吹き零れの量が半端なくて、1合炊きは敬遠したい感じでした。

1合炊きの場合、水は若干多めにした方が
固いご飯にならずに済みます

ソロ用のストーブは
最大火力でも一点に火が当たる格好になります

吹き零れは、もっとも多く、始末に困りました
これがバーナーヘッドの大きなストーブなら
大惨事になっていたと思われます
■考察
やってみて感じたのは、掛子が入っていると、沸騰の時に蓋が持ち上がって来にくいし、多少の差はあれど吹き零れするし、重湯の状態をみるのも大変だし、あまり良いやり方ではないな、という事でした。やってやれない事はない、けど、ほとんど頓知のテクニックであって、常用したいという感じではありませんでした。また、掛子に入れて炊飯と同時に調理出来る物が他にあるか、スーパーで探してみたのですが、案外なくて、シュウマイくらいしか見つけられませんでした。というのも、自分は弱火時に重湯の状態を見るために蓋を開ける派なので、掛子を持ち上げた時に溢れる様な液状のものでは困ります。固形物でかつ掛子に収まる物となると、小型のシュウマイくらいしかなかった、という訳です。
自分の場合、予めシュウマイ蒸す予定があるのなら、飯盒蒸し器を持って行くでしょうし、それで先にご飯を炊いてから、ご飯を他の容器(キャンティーンカップなど)に移してから、蒸し器でシュウマイを蒸すと思います。その方が大きめのシュウマイも蒸せて、より便利な気がします。
自分が掛子併用で炊飯するのを苦手とするのは、出来れば吹き零れさせたくないからで、吹き零れさせたくない理由は、その下にストーブがあってこれを汚したくないからです。その点に目をつぶれば、掛子併用で炊飯は可能である事は確かです。ちなみに、高山など沸点が低い場所では、あえて掛子を入れて圧を高める工夫もするそうです。その意味で、このやり方は絶賛出来ないものの、やれん事はないやり方だと思います。
コメント
コメント一覧
それはそれは素敵な事なんですが、噴きこぼれでエライ事になったストーブの後始末がね〜〜
飯盒炊飯の参考にさせていただきます。
まぁ、実際には、ズボラかまさず、ご飯はご飯だけで炊くんですが、
昔から似た様なことを考える人はいたんだな、とw
福永恭助氏の國の護り、面白そうな本ですね。ググったらオークションやら古本屋に結構在庫あるようで入手しやすそうです。早速手に入れてみようかと思っています。
ネットでも掛子をセットして飯と副食を同時に調理してる人がいますが、「軍隊調理法」でも解説されている様に、本来はあまりオススメされるやり方ではない様です。
まぁ、飯盒の本来の目的は、美味い飯を炊く事にあるので、中途半端な飯になったので台無しですしねぇ^^;;
ちなみに「國の護り」は国立国会図書館デジタルコレクションで見つけましたw