自分は18歳で東京に出て来て以来、時々の空白はあるものの、常に兵式飯盒を日用品として使ってきました。数え上げると、初代はメーカー不明の兵式飯盒、2代目は確かニュートップの3合炊き飯盒、3代目が自衛隊の旧型飯盒、4代目が谷口金属製、そして現在も現役の6代目がキャプテンスタッグ製、以上です。兵式飯盒以外の飯盒も使った事がありますが、おおよそ日常品として使って来たのは、初代〜5代目までの兵式飯盒だったのです。
   日用品だけに、飯盒自体をどうこうレポートする気はなかったのですが、今回、谷口金属製の飯盒を改めて手に入れて、キャプテンスタッグ製と結構違うところがあったので、比較記事を載せておきます。


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左が谷口金属製、右がキャプテンスタッグ製
パッと見た目にはどちらも同じです

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意外と知られてない、飯盒の各部名称
(「被服手入保存法」から抜粋)




■谷口金属のハンゴー兵式

 自分が谷口金属のハンゴー兵式と巡り会ったのは、上野のOD BOXという店で、自衛隊の飯盒を処分してしばらく経ってからの事でした。まぁ、飯盒ですから金物屋が作っているのですが、にしても谷口金属という、誰かの名前みたいな会社名にかなり心が惹かれました。しかし、値段は2,500円。それなりのお値段です。買うか買うまいか、結構悩んだのですが、やっぱり飯盒ないと不便という事で買いました。
   その後、設営隊活動はもちろんの事、自宅でもよく使っていたのですが、買ってから3年ほどして、出勤前に味噌汁作って、帰って来てみたら味噌汁の量が目減りしてるって事がよく起こり始めました。そして、とうとう帰って来たら半分くらい無くなっていて、ガスコンロがベシャベシャに濡れてるという事態になり、こりゃおかしいという事で良く見てみたら、底に鉛筆の先ほどの穴が開いていて、そこから漏れている事が分りました。
   初代からこれまでの飯盒は、大抵は汚らしくなったから捨てた、という最後が多かったのですが、今回初めて、底に穴が開くほど使い、使えなくなって捨てる事になりました。3年でアウトというのは、短いのか長いのか。でもまぁ、十分2,500円の元は取れたのではないか、と思ってました。

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今回、オークションで手に入れた中古品
箱に書いてある「中子」は「掛子」の間違いです


■キャプテンスタッグの兵式ハンゴー4合炊き

 谷口金属の飯盒がなくなって、こりゃ困ったな、という事で買い直したのが、キャプテンスタッグの飯盒でした。たしか、オリンピック白山店で997円でした。前の飯盒が2,500円もした事を思うと、997円というのは格安です。まぁ、これくらいの値段でないと、わざわざ飯盒買おうって気にはならないかな。もっとも、定価は3,300円もします。その後、長い間、オリンピック各店では997円で売られていましたが、最近、ロゴスの物に変わりました。オリンピックでは一体、どういう価格設定だったんでしょうね。
   それはともかく、初めてキャプスタの飯盒を見た時の印象は、値段相応のチャチさでした。本体の縁はちょっとガタった感じですし、革通しの金具もペラペラでやたら隙間が大きく、塗装はテッカテカでつや消しでもない。まぁ、値段が値段だけに、あまり文句言っちゃダメかなぁ〜、という感じです。まぁ、大事な事はちゃんと飯が炊けて料理が作れる事ですから、その辺りで問題なければ目をつぶる事にしました。むしろ、その安さ故に、誰にでも勧めれる気安さがありました。
   しかし、この安物の飯盒が、かれこれ10年経っても今だに現役です。穴があく訳でもなく、釣手が極度に錆びる事もなく(ガスコンロの火に炙られて、結構錆び錆びになる場合が多い)、10年も使えてるのは、たまたま良い物に当たったのかどうかわかりませんが、にしても997円で10年使えるのはスゴい事だと思います。まぁ、10年も飯盒をウチで使ってるってのも、どうなんだって話しもあるんですが、、、、

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キャプテンスタッグの飯盒、ほぼ新品時
当時はテカテカした塗装が嫌でした

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塗装がボロちくなって来たので、塗り直し
水筒に比べると、日本軍らしい再現がまだまだです


■両者の比較

 今回、オークションに谷口金属の飯盒が出品されていて、ノストラジーに駆られて落札したのですが、届いた物をキャプテンスタッグの飯盒と比べて、いろいろ驚いたり感じ入ったところがあったので、両者を比較してみます。

*仕上がり

 兵式飯盒ですから、基本的な形についてはほぼ同じなのですが、細かいところで差異があったり無かったりしました。全般的に自分の頭のイメージでは、谷口金属は仕上がりが良く、キャプテンスタッグは値段相応の出来映え、というイメージを持っていたのですが、案外そうでもなかった様です。(無論、ロットによって違いもあるとは思います)
   まず、本体の縁ですが、キャプテンスタッグの物は買った時から、ちょっとガタった感じになってるなー、と思ったのですが、谷口金属の方もキャプスタほどではないものの、ガタっている所があって、谷口金属だからデキがいい、というのは、自分の思い込みであった様です。
   飯盒の中のリベットの処理は、谷口金属の方は鋲の頭が平たくなっていますが、キャプスタの方は丸っこくなっています。飯を炊く上では特段支障がありませんが、やはり見栄えは沈頭鋲の方が良いです。
   耳の形は、谷口金属の方は平べったく、キャプスタの方は丸っこい形をしています。この辺りは、メーカーによって結構バラバラで、昔のロ号飯盒(兵式飯盒の元になった日本陸軍の飯盒)でもバラつきがあります。好みもあろうかと思いますが、自分はどっちでもいい感じです。
   飯盒を背嚢に縛着するための、ストラップ通し、正しくは「革通し」というのですが、その部分は両者で異なっています。谷口金属は厚めの鉄板を使い、隙間が狭いです。キャプスタは鉄板がペラく、隙間が大きいです。キャプスタの飯盒を買った時に、一番チャチく感じたのはこの部分でした。実際に、見た目は谷口金属の方がしっかりしてる様に見えます。

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飯盒の縁の出来映えは、まぁ、両者どっこどっこいでした
リベットが枕頭鋲なのはスマートに見えます

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耳の違い、左が谷口金属、右がキャプテンスタッグ
スマートなのは谷口金属です

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革通しの違い、左が谷口、右がキャプスタです
やはり、スマートに見えるのは谷口です
昔の飯盒は、革通しの所にメーカーのロゴが入ってるのが多いです


*掛子と水量線の違い

 ところで、飯盒なんてのは、一応制式図がありますし、当然パプリックドメインになってるでしょうから、おおよその所はどこが作っても変わらない、と思っていたのですが、ここで驚愕の事実が発覚しました。
   というのは、掛子の大きさの違い。見比べて見ると、谷口金属の方がキャプテンスタッグの掛子よりも厚みがあるのです。しかし、これは結構問題です。というのは、掛子と蓋は米の計量器の代わりにもなっていて、掛子すり切り一杯で米2合、蓋は3合なのです。ところが、厚みに違うがある、という事は、この計量に違いあるという事です。
   そこで、両者の掛子の違いを実際に米を入れて確かめてみたのですが、キャプテンスタッグの方は確かにすり切り一杯で2合でしたが、谷口金属の方は2合だと足りない感じでした。飯盒本体の水量線は、米と水を合算した分量の所に付けられているのですが、掛子の容量が違うとなると、そちらも違っている様に思いました。案の定、キャプテンスタッグと同じ量を谷口金属の方に入れたら、水量線より下までしか届きませんでした。
   この違いは、意図的なものなのか、制式図をちゃんと見なかった結果なのか、どちらか分りませんが、2合なら2合できっちり計れるに越した事はありません。となると、これまで上等に思っていた谷口金属は案外いい加減で、安物に感じてたキャプテンスタッグの方が、実用上、しっかり作っていた事になります。意外な結果でした。

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見た目で違いが歴然としています
しかし、タダの皿でなく、計量器なのですから
この違いは大きいです

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蓋の方の大きさの違いは、それほどでもありませんが
形状に若干の違いがありますので、その分、容量が違うと思います

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キャプテンスタッグの方は
きっちりすり切り1杯が2合でした

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谷口金属の方は、2合では足りない感じです

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キャプテンスタッグの方が正しく計量できるという事で
2合の線に合わせて水を入れました

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同じ量を谷口金属の飯盒に入れると
水量線の下に水面が来ます
つまり、水量線は米の分量が多めで設定されてるっぽいです


*革通しの違い

 さきほど、谷口金属の方が革通しがしっかり作ってあって、スマートだという風に書いたのですが、ここは本来、背嚢のストラップを通して、背嚢に縛着する為の器具です。つまり、ストラップが通らない事には意味がいないのですが、なんと谷口金属の革通しは、九九式背嚢のストラップが通りませんでした。それ以前の、革のストラップだったらどうか分りませんが、革だから薄いとは限らない訳で、谷口金属の飯盒では背嚢に縛着できない事が分りました。
   その点、キャプテンスタッグの革通しは隙間が広いので、余裕をもってストラップを通す事が出来ます。実のところ、旧軍のロ号飯盒の革通しもその辺りを考慮したせいか、キャプテンスタッグの革通しに近い形状をしていました。もしかすると、キャプテンスタッグはその辺りも忠実に再現しようとしていて、その他の革通しにメーカーのロゴを刻印しようとしたメーカーは、ストラップを通す事をあまり考えず形だけ真似たのかもしれません。
   時に、最近、この革通しを省略したタイプの飯盒を良く見かける様になりました、「林間」とか付いてる飯盒に多いのですが、こんな出来損ないの飯盒は自分は認めていません。確かに林間学校では、飯盒を持ち運んだりする事はないでしょうから、革通しは要らんという事なのでしょうが、自分はどういう形であれ持ち運びを前提としておりますし、日本軍の背嚢でなくても、ナイロンのストラップを通して蓋が開かない様にしたりもします。何なら、その状態でズボンのベルトに縛着しても良いのです。こういった芸当は、革通しがあって初めて出来る事です。数百円ケチって、せっかくの機能を損なう事無いと考えています。

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革通しは、本来はこうやって背嚢に飯盒を縛着する為のものです

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谷口金属製は革通しが狭くて、ストラップが通りません

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キャプテンスタッグは余裕で通ります

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奥の飯盒が旧軍のロ号飯盒、手前がキャプテンスタッグです
革通しの形状、隙間は、近い形をしています

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ナイロン製のストラップなら
多少隙間が狭くても通す事が出来ます



■まとめ

 飯盒なんて、あまり他のメーカーのもとと比較する事などないので、今回の比較はいろいろ発見があって面白かったです。確実に言える事は、飯盒は実用品であり、また日用品としても使えます。その意味で、掛子の量目が2合とされているのですから、確実に2合計れる物が良いに決まっています。長持ちするかは、そのメーカーの作り、材質、当たり外れ、使い方や手入れなどによって左右されますが、安いからといって安かろう悪かろうではない、という事も覚えておくと良いかも知れません。ともかく、使い倒してなんぼのものですから、普段から使いまくりましょう。