前回、第4回飯盒オフでは、雑誌の取材であったにも関わらず、肝心の料理が美味くいかず、自分としてはとても心残りな結果となりました。飯はパサパサ、カレーの方は食材がシャリシャリ繊維質満点。自分らだけなら、これもまぁ、ご愛嬌なのですが、やはり客人に出すからには、「飯盒使って、こんなに美味しいのが出来るのか!」と感嘆して貰わねば、飯盒愛好家として成功を納めたとは言いがたい。
   しかし、文句ばっかり言っていたのではしょうがない。自分でも、当日とイコールコンディションの条件でチャレンジしてみて、何が不具合だったのかを探り出さない事には改善の余地はない、という事で、改めて「軍隊調理法」によるカレー汁を作ってみる事にしました。


カレー汁
こちらがレシピ




■まずレシピ

   「軍隊調理法」は、書籍としては今は売られていませんが、近代デジタルライブラリーで原本が閲覧可能です。カレー汁は、第二章調理法の第二、汁物の24番目に記されています。
   まず材料ですが、一人分で、肉70g、馬鈴薯(ジャガイモのこと)100g、人参20g、タマネギ80g、小麦粉10g、カレー粉1g、食塩少々、ラード5g、となっています。小麦粉とカレー粉は、油粉捏(ゆふんでつ=ルウの事)に使うのですが、特筆すべきは、カレー粉がたったの1gだという事です。調理の項で出て来ますが、使う水は350mlもあるのに、カレー粉がたったの1gです。恐らく、カレーの王子様だって、もうちょっとカレー粉使っていると思いますが、考察は後にするとして、とりあえず、これらの食材を準備します。
   準備は、肉は細切りとし、ジャガイモは2cm角くらい、人参は木口切り(つまり輪切り)として、タマネギは4分割にする、とあります。肉とジャガイモはともかく、人参とタマネギは、当時はかなり小さめのを使ったのでしょうか。ラードは煮立てて小麦を入れてかき混ぜて、カレー粉を入れてルウを作ります。今回のキーポイントは「煮立てる」という部分です。
   調理は、鍋に肉と少量のラードを入れて少量のタマネギと一緒に炒めて、その後350mlの水を入れて、人参を入れて煮立て、次にジャガイモ、タマネギの順に入れて、塩で味を整えて、最後にルウを煮汁で柔らかくして、流し込んでかき混ぜて出来上がり、です。特徴的なのは、野菜は炒めず、煮込むところです。何にしても、水が沸騰してくれない事には勝負にならない、という事です。

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軍隊調理法には、具材の切り方まで書いてありますが
その辺りはざっくり無視
火の通りを優先した切り方にしました

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しかし、カレー粉と小麦粉の量は厳格に厳守
二人分で2gって、これっぽっちしかないんですよ

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飯盒オフと同条件で行うため、ベランダで炊事
台所と違って、ごちゃごちゃ置かざるを得ず
面倒くさい感じでした


■缶入り固形燃料の縛り

   「軍隊調理法」には、使用する熱源については触れていません。一応、冒頭に薪、石炭、ガス、電気などの熱源に触れていますが、特に野戦での熱源は書いていません。まぁ、そこらにある燃える物を使えという事でしょうが、ここは飯盒オフに準拠して、缶入り固形燃料を使う事にしました。
   缶入り固形燃料は、いわゆるアルコール系の燃料なのですが、以前の自分の調べでは、ガスやガソリンといった化石燃料と比べると、熱量は半分くらいです。それ故に火力が弱いとも言われるのですが、温暖な無風状態の室内だと、あまり不利を感じません。しかし、一歩外に出ると、天候、気温、風力、その他の事象で、一筋縄ではいきません。
   それ故に、これまでの飯盒オフでも、何度か半煮えの料理を食う羽目になった訳です。しかし、アルコールストーブが全般的に火力弱くて料理に使えない、という訳でもありません。要するに、日本軍の様式にしてから、火力不足を感じる事がままあった訳ですが、これはやり方次第、という気がします。
   今回の企画では、日本軍様式、具体的には、飯盒掛けを使用した状態で、沸騰させるのにどれだけの時間と燃料を要するのかを調べる目的で始めました。

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飯盒掛けは、3本の足の角度を変える事で
熱源と飯盒の高さを可変させ、火力を調整する事が出来ます
五徳にはない強みです


■炒める調理法

   カレー汁は、まず油粉捏(ルウ)を作り、肉を炒める所から始まります。どちらも火に鍋を掛けて、油を熱して炒める調理です。
   まずは、油粉捏ですが、軍隊調理法では、「ラードを煮立てて小麦粉を投じて撹拌しカレー粉を入れて油粉捏を造り置く」と書いてあります。何を使ってどうしろ、とは書いてないのですが、「煮立て」なければならないのは確かです。飯盒の蓋などを利用しても良いのでしょうが、飯盒掛けには五徳はないので、蓋持ったままラードを煮立てるのはかなり熱いと思います。さりとて、飯盒で油を沸かしつつ、掛子(中蓋)を飯盒にセットして、伝わってくる熱で煮立てるってのは、やってやれない事は無いでしょうが、相当に時間が掛かります。
   そこで自分は飯盒で油粉捏を作りました。これなら確実にラードは煮立てられますし、鍋が深いので粉が飛び散る心配もありません。むしろ深いだけだって、スプーンでかき回すのが難しいのですが、これは飯盒一般に言える事なので、不便承知で工夫してやりました。
   油粉捏を作ったあとは、洗う訳でなく、そのままラードを入れて肉(今回は豚肉)とタマネギ少々を炒めました。油粉捏の残りが焦げたりしないか、と思ったのですが、意外に焦げない様です。むしろ、残った油粉捏と肉が混ざり合う様に炒まりました。
   肉を炒めるのは、自宅のガスコンロに比べたら、それなりに時間が掛かる様にも感じましたが、それでも5分ほどでおおよそ炒まりました。まぁ、飯盒の中で炒めてますので、カリっという訳ではないですが、とりあえず火が通れば良しとしました。

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飯盒で炒め物出来るって、意外と知らない人が多いんですが
油さえちゃんと入れてれば、それなりに出来ます

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ラードが溶けて、熱せれたら、小麦粉を投入
スプーンでさっさとかき混ぜます
軍隊調理法ではきつね色にならなくてもいいので
混ぜれたらカレー粉を入れて混ぜて火からおろします

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出来た油粉捏
色はそれなりに着いてますが
小麦粉20gにカレー粉2gしか使ってません

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そのあと、ラードを入れて再度熱します
残ってる油粉捏が焦げる前に肉を投入します

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スプーンで肉をかき混ぜて炒めるのですが
飯盒がガタガタして、飯盒掛けが緩む事があります
地面に刺せない場合は、固定の仕方を考えねばなりません



■沸騰させる調理法

   肉が炒まったら、水を入れて沸騰させます。この時、自分は調理法を見落として、人参を入れるのを忘れて、先に水を沸かそうとしました。それ故に余計に時間が掛かりましたが、それでも沸騰するまでには、予想以上に時間が掛かりました。
   とにかく、5分そこらでは全然微動だにしません。こりゃ、蓋をしない事にはダメだ、と思ったのですが、蓋には切ったジャガイモだのタマネギだのが入っているので、仕方なく油粉捏作り置いた掛子を被せました。掛子を被せてもなかなか沸騰せず、掛子の中の油粉捏が溶けてドロドロになる感じでもありません。もしかしたら、ホントに野外でコケネンでは沸騰せんかもなー、とか思ったりしたのですが、水を投入してから約35分後、やっとこボコボコに沸いてきました。
   その後、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎと、順次に入れて行ったのですが、入れた直後は温度が下がって沸騰が収まるので、入れたら掛子をし、沸騰して暫くしたら次のを入れる、という具合にしました。そして、最後10分間、蓋を開けた状態で沸騰させ、煮汁で油粉捏を伸ばして飯盒に投入し、さらに5分間煮て、ようやく完成となりました。調理開始から、約80分後の事でした。

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水をドバドバ。二人分で700mlです

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掛子で蓋をして13分経ちましたが
沸く気配が全然してません

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約35分後、やっとこボコボコに
これぞ煮立ててる状態です

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約50分後、全ての具材を投入し
かつ完全に煮込みました


■出来上がり

   このあと、掛子の油粉捏に煮汁を入れて溶き、飯盒に入れてかき混ぜ、暫く煮たら出来上がりです。この辺りはそれほど難しいもんでもありません。ただ、出来映えは、自分が普段食べているカレーに比べると、バシャバシャに薄いです。それもそのはず、水350mlに対して油粉捏は良い所20gあるかないかですから、圧倒的に薄い訳です。しかもカレー粉はたったの1gです。確かに匂いはすれども、色はほとんど白です。
   具材の方は、結構な時間を掛けて煮込んだけあって、具材は完全に柔らかくなっていました。まぁ、ウチのガスコンロであれば10分くらいで完了する煮込みが、50分も掛かったのは流石に固形燃料の性能の限界というところでしょうか。逆にいえば、普段の飯盒オフでは、煮込む時間が明らかに足りなかった様に思います。時間が掛かってもしっかり煮込めば、具材的には普段のカレーと遜色ない調理になる事が分りました。
   しかし、出来映えはどうみてもカレーというより、肉じゃがっぽく見えます。全く持ってして薄いです。カレー汁と名がついてるだけに、汁っぽいのは許せるとしても、見た目が肉じゃが、豚汁、みそ汁にしか見えないはどうしたもんか。自分らが知っているカレーよりも、むしろ、味噌や砂糖醤油の代わりにカレー粉使いましたー的な雰囲気です。

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煮汁で伸ばした油粉捏を飯盒に投入
ただでさえ量が少ないので
出来るだけ油粉捏を無駄にしない様にします

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具材には完全に火が通ってました
やはり、固かったり筋っぽい状態だと
かなり不満が残ってしまいますからねぇ〜

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しかし、この薄さはどうした事でしょう
カレーだと言わなければ、絶対カレーに見えません


■要した燃料の量

   今回、水を煮立て、具材が柔らかくなるまで煮込むのに、延べで約50分掛かりました。調理時間全体では、約80分掛かりました。使用した燃料は、1個25gの宴会コケネンを6個入れた缶と、160g缶gが約半分くらいです。160g缶の説明によると、約1時間燃焼とあります。つまり、約80分の使用時間で、おおよそ230g固形燃料を消費したというのは、妥当な数字と言えます。もっとも、今回は天候の晴れて暖かく、風もそれほど吹き込みませんでした。もしも天候が悪く、風も強い時には、消費はもっと激しかったでしょうし、風防を活用するなど、防風に気を配らないとならなかったでしょう。
   また、230g使ったという事は、160gの場合は確実に2個、250g缶の場合でも予備1個いれて2個、400g缶でようやく1個でまかない切れる、という事になります。飯盒オフでは、160g缶ないし250g缶を使ってますから、2つは持っていかんとダメって事になります。値段にしたら、大体1000円くらいはする訳で、結構大きな額です。軍装の縛りがないのでしたら、迷わずガスバーナーを使った方が、万事ストレス無く出来ると思います。

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コケネン、バトンタッチww
奥のコケネンはまだ燃えてますが、燃料が底の方にしかなく
もやは火力を持っておりません


■飯盒掛けの使い勝手

   今回、ベランダで初めて飯盒掛けを使ってみたのですが、その使い勝手の良さ悪さは、料理の動作によって左右されました。
   いわゆる「炒める」動作では、飯盒を持って中身をかき混ぜなければならないのですが、飯盒掛けに飯盒を掛けた状態では非常に不安定で、飯盒掛けを倒しかねない事もしばしばありました。今回は飯盒が一つだけですので、まだ良かったのですが、これが3つフルに掛かっていた状態では、とても出来る動作ではありません。炒める動作は、熱源の上に置いてやるのがやり易いです。
   逆に、「煮込む」動作では、要は掛けてけば良いだけなので、地面にしっかり固定出来ていれば、何ら問題ありませんでした。飯盒掛けは、本来こうした使い方をするものなのだと思います。どんな道具でも万能はありません。掛けて使い勝手が悪ければ、その時は手に持つなどすれば良い訳です。
   飯盒掛けは、足の角度を変える事で飯盒の高さの位置を調整でき、つまり火力の調整が出来ます。これはいわゆるハンゴーキャッチタイプの飯盒掛けでは出来ない芸当です。今回は焚き火などでなく、固形燃料を使った訳ですが、それでも高さの調整は便利に感じました。火力調整が出来ないアルコール系の熱源には、向いているのかもしれません。もっとも、風防の対策の問題もあり、やはり万能ではありませんが。

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今のアウトドア用品で、つり下げ使う物というのは
実は少ないんじゃないでしょうか?


■軍隊カレーの考現学的考察

   「温き御飯を皿に盛りて其の上よりかくればライスカレーとなる」と書いてありますから、その通りにしてみましたが、どう見てもカレーに見えません。どっちかというと、クリームシチューです。一口食べてみましたが、どうにも水っぽく、カレーの味はこれっぽっちもしません。それでも美味ければ良いですが、全然美味くありません。これは一体どうした事でしょうか。
   今まで「軍隊調理法」を見ていくつか作って来ましたが、どれもこれも美味いものばかりでした。軍隊の飯は不味い、というのは風評であって、結構美味いもんを食っていたのです。しかし、このカレー汁だけはどうにも頂けない。カレーといえば、ラーメンとならんで、今や日本の国民食とまで言われているのですが、そのルーツは軍隊カレーにあります。が、こんなもん食わされたのでは、とてもじゃないが、満期除隊後も食いたいとは思いません。
   仕方が無いので、ソースを掛けて食べたのですが、ただのソース飯になってしまいました。つまり、薄すぎてカレー足り得ないのです。自分が思うに、「軍隊調理法」に書かれている「カレー粉 一瓦」は「一〇瓦」の誤植ではないでしょうか。それにしたって薄いと思うのですが、まだソースでリカバー出来るレベルになると思います。
   逆に、昔の人は、今の基準で考えれば、薄いカレーを食べたいたのかもしれません。自分が子供の頃には、既に市販のルウでカレー作るのが主流でしたが、それでもソースや醤油を掛けて食べる人は一定いました。無論ソース掛けなくても美味しいのですが、カレーにはソースとか掛けて自分の好みの味にする、というパターンが染み付いてた人が居たんだと思います。
   今回は、あえて「軍隊調理法」の量目の通りにやりましたが、料理というのは感性、センスです。必ずしもマニュアル通りである必要はありません。ですので、他の方がカレー粉からルウを作る時は、お好みの量でチャレンジして下さい。

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どう見ても、黄色みがかった何かです
カレーなりクリームシチューの途中経過みたいです

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お残しする訳にもいかないので、ソースかけましたが
どうもに美味いものにはなりませんでした