棟田博の『陸軍いちぜんめし物語』に「野戦料理の素材」という項があって、そこに小休止の時に十数人の兵隊が1羽の鶏を追いかけ回して捕まえる話しが出て 来る。洋の東西を問わず、どこの戦争でも似た様なもんで、レマクルの「西部戦線異状なし」でも家鴨を追いかけ回して捕まえてる(映画の中で再現されてい る)。捕まえた鶏は当然食うのであるが、豚よりも血が出ずイチコロで締めれるので重宝した、との事。その料理というのが「塩(たいてい岩塩だったが)か粉醤油があれば、いと手軽に煎り肉ができる。欲をいえば、さらに野菜ものがあればいうところなしのオカズになる」との事。そこで今回は、鶏肉と野菜の塩炒め を作ってみた。




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 用意したのは、鶏のもも肉片足、白菜、岩塩、ごま油、以上。調理器具は飯盒。熱源は野戦であれば焚き火なのであろうが、部屋の中では無理なので、携帯燃料の代用としてアルストを使った。
 まず食材を切らねばならないのだが、当時はゴボウ剣と言われた三十年式銃剣(いわゆる帯剣)か、肥後守に折りたたみの缶切りがついた小刀を使ったと思う が、そんなのないのでアーミーナイフで代用した。ところが、よく言われる様に、この手のナイフは食材を切るのにはあまり向かないのである。ぶっちゃけ、ハ サミの方が良い仕事する。そこで直ちにナイフを諦めてハサミで鶏肉を乱切りにした。


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 次にアルストに火を点けて飯盒を掛け、油を熱する。といってもアルストだけに直ぐには熱せられない。なので、お構いなしに鶏肉を入れて、気長に箸でかき混ぜる。油がなじむので、うっかり焦げ付く事はない。


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 そうこうしているウチに、徐々に肉に火が通って来る。まぁ、いきなり焦げたりする事はないので、時々注意して箸でかき混ぜながら、その間に白菜を切っておきたい所なのだが、野外では切った白菜を置いておくスペースや器が無かったりする。


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 十分肉に火が通ったら、白菜をざく切りにして投入する。白菜の事なので、火が通ればシナシナになってしまうのだが、あまり一杯に入れ過ぎるとかき混ぜにくくなるので、適当な量にしておく。大体このくらいの量で2人前である(適当)


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 白菜が若干柔らかくなったら、粉にした岩塩を投入する。実はかち割りの岩塩はナイフやおろし金で削ったのだが、これが結構大変な作業だった。しかも、精製 塩に比べると岩塩は味がマイルドで、精製塩のつもりで目分量で入れたら結構薄味になった。そのあと、飯盒の上でさらに岩塩を削り下ろして味を整えた。 まぁ、辛すぎたら処置無しになるので、あとで塩味が足りないと思ったら、各自好みの調味料を加えれば良し。


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 一応、炒め物であるが、白菜から相当汁が出るので、パッと見は煮物っぽくなっている。塩しか使ってないのに、白菜のお陰かちょっと中華風味。豚だったらもっと濃厚なのかもしれないが、鶏はさっぱりしてて胃もたれしなさそうである。
 ちなみに、前掲の「陸軍いちぜんめし物語」によると、「村落について野営ときまると、なにはさておいて、まず兵隊が探すのは、鶏と豚、そして鍋と釜であった」とのこと。つまり、飯は飯盒で炊いたのだろうが、オカズは中華鍋などで作った、という訳である。
 これまで、飯盒では肉や野菜を炒め物に使うという事はなかったのだが(そんな事したら焦げ付くと思ってた)、やってみれば結構ちゃんと炒められるし、焦げ 付きもしない。まぁ、火力のマイルドなアルストを使っているというのもあるだろうが、意外に飯盒でもヤレるものである。しかし、やはり大きめのフライパン や中華鍋で、強い火力で料理した方がもっと美味く出来る。この飯盒で料理シリーズは、それを踏まえた上でのものと心得て頂きたい。