潤滑油さえ切らさなければ文句をいわずに回ってくれたことから「百姓エンジン」と呼ばれた97戦搭載のハ1に対して、ハ40は信頼性が極めて低く、当初規定されていたオーバーホール時間は、隊員の記憶によれば僅か80〜100時間(試運転時間を含めるか否かで差があると思われる)でしかなく、これはメーカーの不安の表れでもあったのだろう。
特に、長いクランクシャフトには材質上の問題があり、初代整備隊長茂呂豊氏は、「新造ハ40のクランクシャフトが、80時間ちょうどで折れたことがあり、信じられなかった」と語っている。実績のない新しいものほど危なかったという。
一般にオーバーホール時間は、当初は安全を見込んで短く設定されるが、運用の実績とともに延長されていくもので、最終的には当初時間の倍以上に達することは珍しくない。だが如何せん、80〜100時間という短さでは、実施部隊における運用は甚だ厳しい。そこで、オーバーホール時間の速やかな延長が至上命題となり、244戦隊でも延長に努めていたのである。
■XR230のウィークポイント
2005年に発売されたXR230は、ヤマハ・セローに対抗すべく、SL230をモデルチェンジしたモデルです。結果としては排ガス規制によって短期間で製造中止になりましたが、XR250に比べてそれほどガチっぽいところがなく、それでいてオフロードバイクとしてのポテンシャルは非常に高い車両だと自分は思います。どの辺がポテンシャルが高いのか、自分なりの考えをまとめてみると、- パワーはそれほどないものの、粘り強くどこでも登って行く腰の強さ
- 十分過ぎる足付き性による安全の担保
- 大きなハンドルの切れ角による旋回性の良さ
その整備性、というか信頼性をもっとも損なっている部分が、クラッチです。実に焼けるのが早い。クラッチが焼ける、というと、「半クラばっか使うからだー」とか言われる訳ですが、CRF250Rと同じ様に乗っている訳ですから、そこまで初心者ばりに半クラ使いまくってるとも思えません。それでもレースの度にクラッチを焼き、オーバーホールの2ヶ月後にも焼いてしまう、という体たらくです。
聞くところによると、XR230に搭載されているエンジンは、元は100ccくらいの小排気量のエンジンを大型化させたもので、クラッチはその小排気量時代の大きさからあまり変わっておらず、物が小さいのに掛かる熱量は大きくなるので、他のオフロードバイクに比較すると弱い、という事でした。つまり、XR230は林道ツーリングなどを対象としてて、レース走行はあまり想定してない設計だ、という事です。
■皆さんの対策
この様な状況に皆さん手をこまねいている訳ではなく、既に様々な対策が試みられています。自分が聞いたり調べたところでは、以下の対策がありました。- 全部コルクにしてしまう
XR230のクラッチはクラッチフリクションディスクA〜Cで構成されていて、AとCはコルクベース、Bはペーパーベースで作られています。一般にペーパーベースの方が熱に強いと言われているのですが、トライアルやってる人はそのペーパーのをコルクベースに替えてしまうとか。熱に強くなるかどうか分りませんが、瞬発力は強くなる様です。しかし、エンデューロで使うにはどうなのよ?という気がします。 - 全部ペーパーにしてしまう
逆に全部ペーパーにする、という手もある様です。これは林道ツーリングなどで使う人がやる様で、そんなに瞬発力が必要とされないなら、熱に強いと言われるペーパーオンリーにした方が良いという訳です。とは言え、コルクのクラッチ板は1枚しか入ってない訳で、どの程度の効果があるかは未知数という気がします。 - CRF230Fのに替えてしまう
XR230のハトコみたいなCRF230Fですが、XR230の改良の話しの時には必ずといって良いほど登場します。実はCRF230Fに使われているクラッチプレートやフリクションディスクは、XR230と同じ物です。違いは、クラッチディスクBが1枚多い事。つまり、CRF230Fはクラッチ板が6枚入っています。単純に考えて5枚のXR230よりは強力そうです。ただし、1枚多いだけにディスクを納めるハウジング等が違うようで、それがXR230に入るかどうか分りません。チャレンジするにはリスクが大きいので、取りあえず見送りました
■ジャダースプリングの謎
ところで、XR230(CRF230Fにも)には、ジャダースプリングという物が入っています。一番外側のクラッチディスクAの内側に入る、上記のCRF230Fのパーツ図では3と13のパーツがそれです。まず「ジャダー」という聞き慣れない単語ですが、これはWikipediaによると「ブレーキやクラッチ等の摩擦現象を利用する場合の異常振動である」と解説されています。ジャダースプリングは、それを防止する為のパーツとの事でした。ところが、レースで使用するに当たっては、そのジャダースプリングを外してしまう事が多いと言われます。それは、ジャダースプリングを入れる事でマイルドな発進が出来る様になっているのですが、レースではドンと前に出た方が良いからだと思います。
そのジャダースプリングをはめているクラッチディスクAは、他のBやCに比べるとフリクションのセグメントが小さく、代わりに厚みが太くなっています。しかし、プレートに当たるセグメントが小さいので、その分弱いのかもしれません。
先日参加したピットクルーカップでもクラッチを半焼けにしてしまったのですが、このジャダースプリングをはめているクラッチディスクAのセグメントが完全に崩壊して無くなっていました。他のBやCは焦げているものの、まだ原型を止めていました。つまり、弱いと言われるXR230のクラッチの中でも、ディスクAは最弱という訳です。
そこで、思い切ってこのディスクAを同じコルクベースのディスクCに替えてみる事にしました。厚みの差は0.5mmほどCの方が薄いのですが、まー0.5mmくらいどうって事ない、と思って組みました。組んだ直後に少しだけ走らせてみましたが、なんとビックリ、クラッチをパッと繋ぐだけでフロントアップする仕様になりました。今まではそんな事、まず出来なかったのに、です。気になるジャダーは、一速でトロトロ走る分にはまだ出ませんでした。
■どうやら正解
さて、期待満点の改修をやったにも関わらず、6月一杯は痛風でバイクに乗れず、やっとテスト出来たのは7月に入ってからでした。心配されるのは、ジャダースプリングを取った事によってジャダーが発生する事と、その割には大した改善が見込まれない事でした。ともかく乗ってみたのですが、まず感じたのは、クラッチの切れや繋がりが前よりもはっきりし、かつ前に出る感がとても増した事でした。コーナーリングなどで半クラを使うと、前はかなりトロくさい感じになっていたのですが、今は体感的にCRFと変わらない乗り味になっています。前よりも繋がりが良くなった事で、パワフルな感じがしますし、スパッと切れるので、よく言う事を聞くバイクになった感じになりました。
気になるジャダーですが、これは全く出ませんでした。まぁ、バイクでジャダーが出たら本当に困るところですが、出ないとなると、ジャダースプリングが入ってる意味がいよいよ分かりません。現地で他の人といろいろ話しをしてたのですが、どうやらドンと前に出る感が出ない様に、ジャダースプリングを入れてるのではないか、という線で話しがまとまりました。
モトクロッサーはドンと前に出る様に出来てますし、それ故に初めてモトクロッサー乗った時は、そのドンでビビってエンストして転けたり、そうならない様にアクセル少し開けてクラッチ繋いで〜、みたいな乗り方を習いました。しかし、XR230はそのドンが来ない様にジャダースプリングを入れ、じんわり発進出来る様に作ってある様です。そのかわり、ジャダースプリングの分クラッチディスクがチャチく、レースで使用するには弱い造りになっている様です(もっとも、レースで使うのを前提に設計されてると思えませんが)。
今後、継続的に使ってみて耐久性を見る必要もありますが、とりあえず現時点においては、ディスクA&ジャダースプリングをディスクCに換えて使うのが正解の様です。
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