自分が小学校の時に使っていた水筒は、由緒正しい肩提げの水筒でしたが、材質はポリかプラでした。つまり、金属で出来た水筒というのは、流石に自分の年代には使ってる人は少なかった訳です。その後、ミリタリー関係の趣味に走りますが、そこで使った水筒も大抵は樹脂製でした。唯一金属だったのは、旧ドイツ軍の水筒でしたが、そんなのは例外中の例外で、水筒=樹脂製というのはもはや常識であった訳です。
   しかし、昔戦争に行った(正しくは行かさされた)人の戦記を読んでいると、焚き火に水筒を突っ込んで中の水を沸騰させてから飲む様にしていた、という記述が結構出てきます。そうしないで生水を飲むと、良くて下痢、悪くするとアメーバ赤痢で、マラリアやデング熱なども併症するとアウトだったとか。
   その様な訳で、金属製の水筒というのは、いざという時には火に掛けれるんだという事を知っていたのですが、当節はなかなか手に入りません。


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レプリカ昭五式(九四式)兵用水筒
最近、この手のレプリカは中国で作ってるんですが
反日とか日帝打倒とかの折り合いは、どうやってついてるんでしょ?
(自分は大して気にしてませんがw)




■レプリカで良いや

   どうせ買うなら旧軍の、とか思っちゃうのは、自分の脳の中にミリタリー野があるからですが、問題は昔の奴をそのまま使うかどうかです。実はヤフオクなんかを見てると、飯盒だの水筒だのは結構出てます。が、なんたって70年かそれ以上も前の製品です。デッドストックならともかく、おじいちゃんが使ってましたー的なのは、さすがにヤバくて使えません。おじいちゃんが問題なのではなく、結構ボロボロで明らかにアルミが劣化してヤバい粉出てます。資料的価値はあるとしても、実用には向きません。
   そこで目を付けたのがレプリカです。すでに様々な日本軍リエナクターの方々がレポートしてますが、完璧でなくても使える物である方が実用を旨とする自分としては有り難い訳です。そのレプリカにも色々あって、当時の仕様書をまんま再現してる物もあるのですが、当時と今では同じ日本人でも体格が全然違って、例えば中田商店の雑嚢は肩紐の長さが足りなくて継がねばなりませんでした。今回調達したPKミリタリアの昭五式水筒(九四式水筒という名称で販売してた)は、肩紐の長さが多少長めに作られている様です。まぁ、最近は外国の太平洋戦争のリエナクトで、ゴツい外人さんが日本兵役をしてたりしますので、仕様書よりも大きめに作った方が需要があるんだと思います。
   さて、届いた昭五式水筒ですが、まず驚いたのは栓が木で出来ているという事。水筒の栓がコルクってのはよく聞きますが、木ってのはあまり知りません。まぁ、ヒョウタンとか竹の水筒なら木もあるのかもしれませんが、江戸時代じゃあるまいし、昭和の製品で木は無いやろーと調べたら、元々はコルクを使ってたみたいですが(ノモンハン事件の頃辺り)、その後木に置き換わったみたいです。コルクは水上機のフロートやエンジンのパッキンなどにも使ってたみたいで、かつ輸入に頼るところが大きかったみたいなので、水筒の栓などに回せなくなったんでしょう。
   それはともかく、水筒の方ですが、比較的しっかり作ってある様です。中も覗き込みましたが、溶接もちゃんとしててキレイでした。これなら水入れて飲めるかなーと言う感じです。予め、販売元からは「実際に水を入れて使用される場合は、内部の洗浄(洗剤・砂等を入れて振って洗います)また煮沸消毒の上お使いくださいませ」という注意がなされてました。そこで改めて、直接コンロや焚き火に掛けて使う事は出来るか問い合わせてみましたが、「煮沸は鍋等で煮るにとどめるのがベストで、直火にかけての使用はためしておりませんので何とも言えませんが、塗装が剥げる恐れはあるかと思いますので自己責任でお願いいたします」との回答。
   まぁー、アルミの鍋釜は空焚きすると一気にアルミがダメになりますが、ちゃんと中身が入っていれば大丈夫なもんです。にしても、塗膜がダメになる可能性は十分ありますので、煮沸だけに止める事にしました。

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自分で塗り直したロ号飯盒との色の比較
恐らく、水筒の方が実際に近いんだと思います

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水筒の中は案外キレイでした。溶接もしっかりしてそうです
ただし、アルマイト加工とかはしてなさそうです

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ハーネスとバラしたところ
リエナクターの人に言わせると、ハーネスは細かい所が間違ってるらしい
自分的には肩紐が長めに作ってあるので合格w

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それっぽく検定印がスタンプされてますが
これも結構いい加減なんだそうですw


■煮沸してみた

   器としてはしっかりしてる水筒ですが、流石にいきなり水入れて使うのは汚いので、まずは消毒です。販売元からも、洗剤入れて洗うか煮沸消毒せよ、という風に指示が来ています。恐らくこの水筒はアルマイト加工などはされてないと思うので、米の研ぎ汁に漬けて煮沸する事にしました。
   出来る事なら、水筒がずっぽり入る鍋を用意したかったのですが、あいにくそんな大きな鍋はないので、水筒を寝かして米の研ぎ汁に沈没させました。ただし、この水筒は腹の部分は膨らみ、背の部分は少し凹んだ形をしていますので、中が万遍なく研ぎ汁に浸る様に、時々ひっくり返して煮沸しました。煮沸時間はやく10分。米の研ぎ汁で煮沸するやり方は、アルマイト加工とかされてないアルミの鍋釜が使っているウチに黒ずんで来ない様にする下準備で、行平鍋とかでよくやるやり方です。
   さて、10分経って引き上げてみたのですが、ビックリした事に、所々塗膜が剥がれてました。いやはやショックです。どうやら塗装が薄いせいか、ほんのちょっとした傷から水が浸入して、塗膜を剥がして行ったみたいです。まだ剥げてない所でも、塗膜が浮いてウッカリするとバリバリ剥げてきそうです。それ以上、塗膜が剥げない様に、優しく水筒を洗って研ぎ汁のあとをキレイにしました。
   昔の陸軍の仕様書には、爪を立てて掻いても塗膜が剥げない程度に塗る事、と書いてあるそうですが、レプリカの方は別に煮沸などしなくても、サバゲーなどで使ったら一発で傷だらけになってしまうんだと思います。まぁ、その場合は近い色で塗り直すしかないと思います。

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まるでタケノコの灰汁抜きの様に10分煮まくりましたw

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揚げてビックリ!
アチコチ塗装が剥げてます!
この辺りが中華クォリティかなぁ



■木の栓の注意事項

   煮沸消毒が済んだあと、水筒に水を満たして栓をしてみました。この木の栓、根元まで入らず途中で止まるのですが、別に不良品ではなくて当時の木栓もこんな感じだった様です。察するに、当時の日本工業は手工業に頼るところが大で、作ってる工場によって製品もバラバラ。なので多少余裕もった作りにしておかないと、栓がゆるゆるで使えないという事にもなりねません。実際,当時モノでも中途までしか挿さってない物も結構多いのです。
   ところで、販売元からは「ふたは水を吸って膨れますので、あらかじめ水につけておかないと外れなくなります」と注意がありました。まぁ、膨張する事で気密性が上がると考えれば、もっともな事です。しかし、取れなくなるのは困るなーと思ってたら、しばらくすると本当に抜けなくなって困りました。
   それでも水が漏れなければ、まだしも栓としての役目は果たしている事になるのですが、これがどうして、栓は抜けないのに水漏れだけはするという、あまり役に立たない栓である事がそのうち判ってきました。しかも、一体何の木を使っているのか知りませんが、木の臭いが結構キツくて、水筒の口にも臭いが残るほどです。
   そこで、この気の栓をよく見たのですが、当時の物と見比べると、あまり材質の良くない木を使っている上に、仕上げもあまり良くありませんでした。昔の奴はもっとキメの細かい木目ですし、仕上げもよくてツルツルした感じです。恐らく、あまり臭いのしない木を使ったに違いありません。

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しっかり漏れる木の栓。しかもポタポタと
なのに膨張して抜けないwww

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一体、何の木使ってるのか知りませんが
漏れる事よりも、臭いがキツくて閉口しました


■コルク栓を作る

   ともかく、くっさい木の栓では困るので、コルクの栓を作る事にしました。先にも述べた様に、昭五式水筒も初期の頃はコルクの栓(昭五式水筒は、製造された時期によって様々なタイプがあります。またパーツも新旧ごちゃまぜの場合も多いです)でした。それを再現しようという訳です。
   まずコルクですが、本当はスパークリングワインやシャンパンに使われている様な天然コルクが良いのでしょうが、自分は酒を飲まないので手に入れようがありません。そこで東急ハンズに行ってブロックタイプのコルクを買ってきました。これはコルク屑を圧搾形成したもの、水物を入れる栓にはどうなのよ?って感じですが、まぁ他に無いのでこれで作る事にしました。
   昭五式水筒の栓は、このコルクの栓の上に金属の笠というかキャップみたいなのが乗っていて、留革やヒモを通す輪っかがくっついています。そしてその笠に軸が付いていて、それにコルク栓を挿してある構造です。まずは輪っかの代用を探したのですが、いい感じに丸カンボルトがありましたのでそれを代用しました。
   問題は笠の部分で、出来れば金属で欲しかったのですがいい感じのがなく、色々探した結果、タンスの引き出しとかに使うABS樹脂のツマミを発見。これを削って使う事にしました。
   手元に見本がある訳でなく、史料はネットにアップされた写真だけなので、適当に採寸して適当に削って適当に作りましたが、それなりの出来映えになりました。コルクはカッターナイフでザクザクと切って、洗い紙ヤスリで形を整えて、最後は240番と400番の耐水ペーパーで水磨きして仕上げました。
   まぁ、所詮は形成コルクなので逆さにすると、じんわり水が滲んで来るのですが、付属してた木の栓よりは遥かにマシ。しかも臭いもそれほどキツくないのでグッドです。この栓も中途までしか入ってませんが、コルク栓でもこういう感じのを多々見かけます。まぁ、多少キツめに作っておいた方が気密性が高まると思うので、これで良しとしました。

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左の玉子型のケースは、削って笠の部分にしようかとしましたが
バリバリ割れて使い物になりませんでした

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そこで見つけた引き出しのノブ
材質は勝手知ったるABS

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要らん部分を削って、いい感じに組み合わせました
ボルトやナットはステンレスなので錆びません

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色塗ったらそれっぽくなりましたw
逆さにすると水が滲んできますが
木の栓よりは全然マシです


■中田商店製木の栓

   木の栓でもう少しマシなのはないのか、と思ってたら、御徒町の中田商店に木の栓がゴロゴロ売っていました。そこでとりあえず調達して、中国製の木の栓と比べてみました。見た目、仕上げともに、圧倒的に中田商店製の方が上等な作りでした。もちろん変な木の臭いもしません。値段は300円でしたが、木の栓を使うのなら、中田商店の栓に替えた方が良いでしょう。
   もっとも、栓そのものとしては、中国製の栓よりもガタが大きく水漏れはかなり酷そうです。また充分挿さらないので栓を留める革ひもがバックルに届きませんでした。これは中田製の栓の問題というより、中国製の水筒本体の問題ではなかろうかと思います。木の栓を削っていい感じに飲み口に合う様にすれば良さそうですが(実物の水筒でもそうやってた気がします)、なんちゃてコルク栓の方が栓としての仕事はよくしてくれますので、コルク栓を使う事にしました。

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左が中田製、右が中国製
材質、仕上げともに、圧倒的に中田製の方が丁寧です

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ところが、結構ガタが多い上に
中国製よりも挿さらないので、留革が届きません

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見た目は中田製の栓の方が上ですが
実用としてはコルク栓の方がしっかりしてます


■容量とか重さとか

   軍用の水筒って、大体容量が1リットルかと思ったら意外にそうでもなくて、この昭五式以前の水筒は800mlくらいだったそうです。もっとも、先ほど述べた様に、この昭五式水筒にしても、作ってる工場によって結構バラツキがあったそうなので、大体1リットル前後って感じだったかもしれません。そこで水を入れて量ってみたところ、1リットル少々でした。少々の部分は入れた時の誤差だと思うので、ジャスト1リットルと言って良いと思います。
   金属製の割にはそれほど重いと思わなかったので、重さも量ってみましたところ、256gでした。ちなみに、ナルゲンのオアシスは130gで、大体半分くらい。そりゃまぁ、昭五式水筒はアルミといえ金属ですから、それなりに重い訳ですが、実際に1リットルの水を入れて肩から提げてみたところ、そんなに重いとは感じませんでした。
   今回、初めて金属製の水筒を買ったのですが、気になったのは水を入れっぱなしにしておくと、やはり金臭くなるのか、という事。試しに一晩入れてから、翌日飲んでみたところ、思ったほど金臭くはありませんでした。もっとも、寒い季節の室内でのテストですので、これが暑い季節に山歩きとかしてる最中だと違ってくるかもしれません。また、底の方に残った水は若干金臭い臭いがしましたので、やっぱり多少は臭いが移る様です。しかしまぁ、米軍のキャンティーンだってポリ臭くなる訳ですから、許容範囲でした。

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約倍の重さの違い
でも、多寡が130g程度です、大差感じませんw
(最近はやりのウルトラライト的には問題か?)

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容量は概ね1リットル
しかし、今時こんな形の水筒提げてる人が居ませんよねぇww