飲料のアルミ缶を使ったアルコールストーブの作成については、色んな人が紹介してるし、中にはスゴい凝った物を作っている人がいるので、敢えて自分が何か書く必要も、またその資格もないと思っていたのですが、今回作るにあたってもやはり色々考えるところがあったので、せっかく作ったんだからレポート書いておこうという事になりました。
   そもそも、トランギアやエバニューその他からアルコールストーブが市販されているのに、わざわざアルミ缶でアルコールストーブ作ろうとするのは、それなりの理由があるのですが、その代表的なところとしては、
  1. 材料費がタダ当然である事
  2. 軽い事
  3. ちゃんと作れば火力は市販品に負けない事
   辺りではなかろうかと思います。特にウルトラライトハイキング(UL)の観点から言えば、これら3つの要素は非常に重要で、しかもタダとあってはやらん方がおかしい、というくらいの位置づけじゃないかと思います。それを踏まえた上で、自分はあえてもう一つの要素として、「自分で考え、作る楽しさがある」というのもあると思っています。理科の実験や図工の作品みたいな感じです。


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空き缶の底を合わせるタイプの副室加圧式アルスト
クッカーとバーナーの高さが足りなくて
この状態では火が消えてしまいます




■アルミ缶ストーブの作り方

   作り方に関しては、それはもう、検索すれば山ほど、出てきます。自分が今回参考にしたのは、空き缶の底を2つ使うタイプでは空き缶アルコールストーブの作り方(1)と、空き缶の上下を使うタイプではThe Perfect Alcohol Stove, part 1の2つです。
   空き缶の底を合わせて作るやり方は、かなり昔から知っていて、自分が過去にいくつも自作したタイプはこれでした。見た目から想像するよりは結構堅牢で、ジェット穴の開け方次第で非常に火力を強くする事も出来るのですが、如何せん、アルストの宿命でもある「五徳を工夫せんと使い物にならない」を踏襲していています。また、缶の底に穴を開ける作業が結構大変で、丁寧な仕上げにしようとしたら、なかなか手間です。
   それに対して、空き缶の上下を使うタイプは、いわゆる「サイドバーナー式」でストーブの上にクッカーを載せる事が出来るので、五徳が要りません。しかも缶の上蓋に穴を開ける作業は、カッターナイフでけがいてニッパーで切り取るだけなので、上記のタイプよりも手間が要りません。しかも500mlの空き缶1個でストーブ1個が作れる経済性の良さも持っています。

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副室加圧式タイプでは、缶の底に穴を空ける作業が大変
この後、ニッパーで切り離し、紙ヤスリで切り口をキレイに整える
その代わり、このタイプは結構堅牢な造りである

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サイドバーナー式では、缶の上部をカッターでけがいてニッパーで取り除く
作業としては楽な部類
ただし、クッカーを置くこの部分が歪む事が多い
(作成時の問題か、熱で変形するか、調査中)


■アルミ缶ストーブの肝の部分

   アルミ缶でアルコールストーブを作るのは、それなりの手先の器用さがあれば、誰でも出来ます。しかし難しいのは火力の調整というか、設定。具体的にはジェットの穴の径の大きさと数です。空き缶アルストの火力は、この2つによって決定すると思います。
   今回試作したタイプでは、最初は1mmのピンバイスで24穴開けたのですが、これは火力が強すぎて直ぐに沸騰するのは良いのですが、ご飯を炊くのには少々難がありました。そこで16穴にしたのですが、これだとちょっと物足りない。さらに0.5mmのピンバイスを使って24穴にしてみましたが、さすがに穴の大きさが小さすぎて火力が弱い。そこで8穴だけ1mmにしてみましたが、なんか今ひとつ。そこで、押しピンを使ってみました。径の大きさは大体0.75mmくらい。そして16穴開けてみたのですが、ちょっと弱いかなー、みたいな感じ。そこで4穴だけ1mmにしてみたら、まぁこんなもんで良いか、みたいになりました。
   なお、在来型の底同士を合わせるタイプの方は、押しピンで穴を16個開けました。こちらも1mmでは16穴でも火力が強すぎ(24穴では猛烈すぎた)、0.5mm穴では逆に頼りない。意外に押しピンはいい感じになるみたいです。ちなみに、押しピンでグリグリ穴を開ける事も出来ますが、穴の周囲が凹んで若干みっともない感じになるので、一旦0.5mmのピンバイスで穴を開けてから、改めて押しピンで穴を広げるやり方を取りました。

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意外にも押しピンで穴が開けられる
固い缶底も貫通させれるが、結構力が要って大変
火力調整的には、押しピンくらいの穴の大きさが丁度良さそう



■アルミ缶ストーブの使い方

   アルミ缶アルストも基本的にはトランギアやスウェーデン軍アルストと同じ使い方です。アルコールを注いで火を着けるだけ。しばらくプレヒートさせると、周囲のジェット穴から火が出てきます。使い方の違いとしては、缶底2つを合わせるタイプは、トランギアと同様に五徳が必要ですが、サイドバーナータイプはそのままクッカーを載せる事が出来ます。つまり、装備から五徳を外す事が出来ます。
   ただし、サイドバーナータイプは本燃焼が始まりジェットからの火が勢い良く安定するまでクッカーを載せる事が出来ません。そうなる前に載せると火が消えてしまう事があります。その点、在来型のタイプは五徳にクッカーを載せておけば、そのうちストーブが温まって本燃焼が始まります。その意味でいけば、サイドバーナータイプは若干燃料を勿体ない事してる様に思います。
   この種のアルミ缶ストーブの最大の欠点と自分が見なしているのが、蓋がないため消火が出来ず使い残しのアルコールも残せない、という点です。消火はアルコールを燃やし尽くすまで待つしかなく、多めにアルコールを入れた場合は無駄にアルコールを燃やさねばなりません。使う量を把握して要る分だけ入れるのが良いのでしょうが、面倒な話しです。
   そこで試しに空き缶の底で消火蓋を作ってみました。在来型、サイドバーナータイプ、どちらにも使ってみましたが、いい感じで消火する事が出来ました。時々消火しきれない時もありますが、その時は息を吹きかければ消す事が出来ました。そして完全に冷えてから、逆さまにして残ったアルコールを蓋の方に流して回収する事も出来ました。若干こぼれたりする事もありましたが、全然回収出来ないよりは遥かに前進です。

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複室加圧式タイプは五徳がない
大抵はトランギアTR-B25の物が使える

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アルストは火力が弱いと言われますが、トランギアより強いです
その分、アルコールの無くなりは早いです
火力が強すぎると、飯を炊いたりラーメン煮たりといった作業が難しくなります
(湯沸かすだけだったら、火力はどこまでも強い方が良い)


■本音の話し

   さて、今回、五徳不要のサイドバーナータイプを作ったり、消火用の蓋を作るなど、今までに作って来たよりも成果を前進させたのですが、それでもやはりトランギアTR-B25には敵わない、という印象を持ちました。まぁ、市販品を凌駕する性能を持っていれば、TR-B25がかくも長く生きながらえる事は叶わなかったのですから、敵わないのはむしろ当然なのですが。
   自分がそう思う理由は、
  • どうしても絶妙な火力が得られず、弱いか強いかのどちらかで使い勝手が悪い事。
  • 軽量過ぎる事。安定感に欠く事。
  • やはり消火、アルコールの回収(保管)に信頼性が欠ける事。
  • チープ過ぎて大事にする気があまり起こらない事。
   などなどです。これまでにも同様に感じて来たので、今まで何度も作る機会があったにも関わらず、今回含め、空き缶アルストを制式装備に格上げする気にはなれなかったのです。自分でアルストを作る事自体は面白いですし、夏休みの工作的な楽しさがあるのですが、やはりTR-B25とキャンティーンカップスタンドの組み合わせの方が使い勝手が良いのです。その使い勝手の前に、100gくらいの軽量化はあまりメリットに感じられません。
   実は今回、クッカーが直に置けるサイドバーナータイプにかなり期待をもって作成したのですが、TR-B25並の火力に調整する事が難しかった事(強すぎた)、作成の仕方に問題があるのか、あるいは熱が加わってしまうせいか、クッカーを載せる上辺部分が変形する事が多く、きちっとした物を作る事が出来ませんでした。同じサイドバーナータイプでも、ロールエッジタイプは治具さえちゃんとしてれば、もっと良いのが出来そうですが、今のところ挑戦する見込みは立ってません。
   今回、改めて空き缶アルストを作ってみて感じたのは、市販されている製品は、おそらくもの凄い数の試行錯誤を繰り返し、もっとも適切かつ絶妙な結果を出しているんだろうな、という事でした。今回の試作だけでも合計7個のアルストを作りましたが、結果的にはどこれも満足いくものではありませんでした。もっと頑張って作り続けて行けば、そのウチ良いのが出来るのかもしれませんが、今回はこの辺で止めておこうかと思います。

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キャンティーンカップスタンドとトランギアの組み合わせ
やはり市販品には敵わないですねw