■はじめに
   今のアウトドアシーンでは、クッキングストーブの主流はガス、次いでガソリンという事になろうかと思いますが、ソロで行動する人の中ではアルコールを愛用する人が意外と多い様です。その理由としては、

  1. ガスバーナーの様にカートリッジやカセットといった嵩張る物がない
  2. ガソリンバーナーより軽量小型
  3. 無風状態に近ければ、意外に火力も強い
  4. 点火が簡単で、壊れない
   といった事が挙げられようかと思います。その昔、まだストーブと言えば、いわゆる「ラジウス」と総称されていた灯油ストーブが主流であった頃から、単独登山をする人にはアルコールストーブを使う人が少なからずいたそうです。嵩張ってクソ重たく、火力調整とか面倒臭い灯油バーナーが敬遠されて、「一人だったらアルコールでいいや」と考える人が昔からいた、という事でしょう。灯油ストーブのプレヒートには燃料アルコールやメタタイプの固型燃料を使う訳です が、一人分のメシなら、そうした燃料でも十分対応できる事を昔の人は知っていた、というか、今よりも重くて不便なストーブ使うしかなかったが故に、必死こいて軽量小型なバーナー(の燃料)を探した結果、アルコールに行き着いた、という事なんだと思います。
   逆に欠点はといえば、以下の様な事が挙げられると思います。
  1. 燃料が意外と高い
  2. 火力が弱い(風があると顕著)
  3. 火力調整が利かない(というか、構造上、そんな機能はない)
  4. 純正の五徳&風防がデカイ(ガソリンストーブよりもでかくなる)
  5. システムクッカーは、専用クッカー以外が使えない


1)意外に高い燃料

   燃料用アルコールはマツモトキヨシやドラッグぱぱすといった、そこそこのドラッグストアなら大抵置いてますし、田舎の方でも薬局に置いてあると思います。値段は500mlのポリボトルで300〜400円くらい。昔は200円くらいでしたが、イラク戦争で原油価格が高騰した影響か、燃料用アルコールも値段が上がっています。ホワイトガソリンが1リットルで820〜1000円くらいですから、アルコールの方が若干安い事になります。
   ところが、ガソリンに対してアルコールの力価は大体半分くらいだと言われています。こちらの燃費実験でも、半分とまではいかないまでも、2合の飯盒メシを炊くのに約1.5倍の燃料を消費していている事が判ります。アルコールストーブが火力が弱いと言われる所以は、まずここにあります。火力が弱い=沸騰するまでに時間が掛かる=燃料を余計に食う、という訳です。結果、単価は若干安くても、消費量が多いため、ホワイトガソリンと同格もしくは若干高め、という事になるのです。
   これを損したと感じるかどうかは、使う人の感覚によって変わってくると思います。というのは、例えば、ガソリンストーブとトランギアのアルコールストーブを単純比較した時、トランギアの方が圧倒的に値段が安い事、軽量小型といった面や、一人で使うには十分な火力、といった面を考慮して、その上でホワイトガソリンと値段が大して変わらないのであれば、アルコールでもイイや、と考えるのもアリだと思うからです。ガソリンストーブを使う人の多くが、バイクツーリングをする人ですが、こうしたライダーはそもそもバイクのタンクに入っている自動車用ガソリンが使えるところにガソリンストーブの利点を見いだしているのであって、そうした人でもバイクを降りて歩きで出かける時には、アルコールストーブを使うという人が案外多いのです。つまり、多少高めの燃費は、 極めつけの軽量小型化の代償として捉えるのが良いかと思います。
   ちなみに、化学会社や製薬会社からは、一斗缶(16〜17リットル)で燃料用アルコールを売っているところが多く、その場合は500mlあたりの値段を ポリボトル入りの場合の半分以下に押し込む事が可能です。年中アルコールストーブしか使わない人は、一斗缶で購入するのも燃料代を安くあげる方法の一つだと思います。


2)風に弱い
   ガソリンストーブは、余熱によってガソリンを気化し、それを噴射して燃やす構造ですので、一旦火が着いてしまえば、よほどの強風でもない限り、風の影響 をあまり気にする事はないのですが、アルコールストーブはただ単にユラユラと火が燃えているだけなので、風が吹けば、そよ風であっても炎が揺れて火力が低下します。アルコールストーブの場合でも、よほどの強風でない限りは火が消える様な事はありませんが、その代わり、風に煽られて燃料消費が早くなる傾向が あります。トランギアTR-B25は、50ccのアルコールで25分燃える事になっていますが、強風下では約100ccの燃料が約10分足らずで無くなっ て、しかもかろうじてカップ麺が作れる程度のお湯しか沸かす事が出来ませんでした。
   しかしながら、室内であれば、ストーブに満タンのアルコールで、2合の飯盒メシが3回は炊けるだけの火力を有している訳ですから、基本的にアルコールストーブは無風下で使うのがベスト、と考えておくべきでしょう。ガソリンや灯油のストーブの様に、プレヒートで火だるまになったりしませんし、ススが出る訳でもないので、テント内で使う(というか、安心してテント内で使える)物、と考えるのがベターでしょう。仮に屋外で使用する場合は、風防で風の影響を受けにくくする措置をとっておくべきでしょう。
   ところで、火力が弱いと評判のアルコールストーブですが、水が沸騰するのにガスやガソリンのストーブより時間が掛かる、というだけで、沸騰しない訳では ありません。灯油ストーブと比較した場合では、灯油ストーブをプレヒートしている間にアルコールストーブの方で湯が沸いた、という話しがあるくらいです。 また、メシ炊きに関する限り、アルコールストーブの火力くらいがむしろ丁度よく、ガソリンバーナーで弱火に気を付けながら炊くよりも遙かに美味いメシが炊 けます。その意味で、けっして使い物にならないほど火力が弱くない(むしろ、アルコールのくせに強い)と思います。

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極寒強風の中、奮闘するトランギア
2006年1月、本須賀海岸にて


3)火力調整が出来ない

   アルコールストーブの欠点として、火力調整が出来ない、というのを挙げる人が意外と多いのですが、これはガスストーブが微妙な調整が出来る事を受けての事だと思います。火力調整が出来ない、という意味でいえば、灯油ストーブはポンプと圧力弁で調整するという匠の技が要求されますし、ガソリンストーブの多くは火力調整が苦手です。ガソリンストーブでも弱火が出来る物がいくつかありますが、もともとの火力が強力であるので、弱火にしても全然強い場合が多く、うっかりすると焦げメシを作ってしまいます。また、弱火を続けると、タンクに圧が掛かりすぎて安全弁から火を噴く、という事故もよくある様です。
   ところが、アルコールストーブは、もともとの火力が弱い訳で、全開で燃えたとしても、どーっちゅう事ないというのが実情です。一応、トランギアTR-B25には火力調整用のフタが付いていますが、メシ炊きで使ったためしは一度もありません。まぁ、チーズフォンデュでも食べるんなら全開で燃えられては具 合が悪いですが、普通にメシ炊いてラーメン煮て、の作業であるならば、アルコールストーブで火力調整を必要とする事はまずありません。故に、始めっから火力調整を必要としないストーブ、と考えて差し支えないと思います。


4)純正の五徳&風防がでかい

   トランギアTR-B25は、ストームクッカー、ミニトランギアに使われるアルコールバーナーですが、ストームクッカーは言うに及ばず、ミニトランギアで使用するTR-281五徳もそれなりに大きな物で、せっかくバーナー自体がコンパクトなのに、それを損なっている感が否めません。純粋な五徳として売られ ているTR-23五徳に到っては、何だってこんな嵩張るデザインなんだと首をかしげるほどの大きさです。また、スウェーデン軍飯盒では、飯盒の外側を覆う ようなカバーが五徳兼風防として装備されています。

   同じように感じる人やメーカーは多いと見えて、MSRからはトライアングル・スタンド(今はLiberty MountainからWestwind Stoveとして再販。日本からもオーダー可)が、ハローマークデザインからはアリゾナストーブ(OD BOXからアルコーリック・ストーブとして復刻)が発売され、個人でも空き缶ハンガーのワイヤー、アルミ棒などを利用した五徳を作る人が現れました。これらの五徳の特徴は、とにかく軽量でコンパクトである事。その為に対風性能は犠牲になっているものがほとんどです。
   しかし、不評な割りには、ストームクッカーなどは今でも販売され続け、ブラックバージョンなど出ようものなら、たちまち売り切れとなる人気です。そこで、試しにTR-281五徳を買ってみたところ、意外な事がわかりました。それは、五徳の容器が風防としてだけでなく、保温性が高い事。アリゾナストー ブやトライアングル・スタンドよりも火口から鍋底までの距離が高い事でした。察するに、ストームクッカーかスウェーデン軍飯盒のカバーが、ストーブをカバーするデザインになっているのは、風を避け、熱を逃がさない事で、ストーブの熱効率を高める設計になっているらしいのです。TR-281五徳は、これら カバー式五徳に比べると、隙間が多い訳ですが、それでも火を消してからもしばらく熱い事を考えると、最小限の保熱性をもってストーブを加熱する設計になっている様です。そして、火口と鍋底の高さは、炎の温度がもっとも高い位置に合わせてあるのではないかと思います。
   従って、アルコールストーブは、単に風を避けるだけではなく、ストーブが発する熱を極力逃がさない様にする事によって、最大の効率で運転できるストーブなのではないか、と見直すに到った訳です。その意味では、五徳だけの機能しかないコンパクトな五徳は、アルコールストーブの性能を十分引き出せない五徳、 という事になります。


5)システムクッカーは、専用クッカー以外が使えない
   ストームクッカーやスウェーデン軍飯盒がよく考えられたシステムクッカーである事は判りましたが、専用のクッカーしか使えない、というのは抵抗のある話 しで、かくいう自分も今ひとつストームクッカーは買う気になれません(1万某の値段にも抵抗があるが…)。スウェーデン軍飯盒は昔ネットで売り飛ばしたくせに、再び手に入れましたが、やはりメシを炊くのなら日本陸軍が開発した兵式飯盒の方が優れていると思います。それに、ソロキャンプだったらば、兵式飯盒はいうに及ばず、ストームクッカーはSでも大きい訳で、ユニフレームのスクエアコッヘルくらいの小さなクッカーで十分と考える人にとっては、どちらも嵩張る荷物以外の何者でもありません。
   となれば、他の代替品で、ストームクッカーやスウェーデン軍飯盒がもつカバー式風防を作る他ありません。そこで目を付けたのが、MSRのウインドスクリーン。このアルミホイルのごつい版は何度も薄く折りたたむ事ができ、使う時は伸ばしてクッカーのサイズに合わせて円形を作って使う事が出来ます。ストームクッカーほどの防風w性は期待できないまでも、MSRのストーブでさえ熱効率があがると称するスクリーンですから、アルコールストーブでも十分威力を発揮するでしょう。






■最新のたにし的アルコールバーナー&クッカーセット
   アルコールバーナーを装備する上で、一番ネックになるのは「システマチックなパッキング」ではなかろうか、といつも考えています。つまり、バーナー、五徳といったアイテムはそれぞれ小型であっても、形がバラバラであるので、システム的に装備するのが難しいと思う訳です。そこで、当節の流行りであるクッカーの中にバーナーを仕込む方法で、この問題を解決しました。

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   今回使用したのは、愛用のキャンティーンカップですが、入る物ならどんなクッカーでも良いです。中には、トランギアTR-B25、予備アルコールのナルゲンボトル、100円ライター、軍手、アリゾナストーブを入れます。MSRの風防は別梱包の方がパッキングし易いです。

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   こんな感じで、軍手を緩衝材にして良い感じに収めます。アリゾナストーブだけは入りませんので、カップの口の部分に添える様にしてパッキングします。燃料はトランギア本体に100cc、ナルゲンボトルに60ccありますので、日帰り程度なら十分でしょう。

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   外で使う場合は、よほど無風の時でない限り、風防をしない事には使い物にならないと思います。まぁ畳んで持ち歩けるので、そんなに手間は要りません。


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   キャンティーンカップは、手製の袋に入れました。茶の湯の道具みたいで個人的には気に入っています。長期の作戦の場合は、別個にアルコールを入れたボトルを持つことになります。



(2013.2.27→キャンティーンカップ・アルコールストーブセット